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原子核励起状態の崩壊時間

原子核の崩壊にはα崩壊、β崩壊、γ崩壊がありますが、このような原子核の崩壊に関する研究は、例えば寿命の長い原子核を短寿命核種へ変換したりするなどといった応用面でも大変重要なものとなっています。 我々は、このような崩壊過程としてγ崩壊を取り上げ、基礎的な観点からの研究を行っています。γ崩壊は励起準位にある原子核が低い準位に遷移する際にγ線を放出する過程ですが、 原子核がどのように遷移(崩壊)していくかを調べるためにはパルス的な励起状態の生成が可能である放射光は大変適したものになっています。
Nuclear resonance excitation

ここで、N(t)を時間tにおける散乱γ線の数(N0=N(0))、原子核の寿命を t0とすると、パルス的に励起された原子核の崩壊時間依存性は、以下の図に示すように指数関数型を示します。 これはFeの同位体であるFe-57の第1励起状態(励起状態エネルギー14.4keV)からの崩壊γ線の時間依存性で、寿命141ns(半減期に換算すると98ns)で崩壊しています。
Exponential time spcrtrum
ところが、原子核の集団をパルス放射光でコヒーレントに励起させた場合、前方方向に散乱されてくるγ線の数は下図に示すように指数関数型とは異なった時間依存性を示すようになり、短時間で崩壊してしまいます。

Forward time spctrum

原子核の励起状態は常に指数関数型で崩壊するものと思われる方も多いですが、原子核からのγ線が他の原子核とコヒーレント(可干渉的)に相互作用することによって、このような短時間での崩壊が起こり、上の図の右側に示したような時間依存性を示します。 ここで、J1は1次のBessel関数で、Tが集団性を示すパラメータです。比較のためにこれらのスペクトルを同時に表示したものが左下の図です。 右下の図はこれの縦軸を対数目盛で表示したものです。

Time spectralog time spctra

指数関数の崩壊時間依存性はこのような対数表示では直線的な時間依存性として表示されています。ここで、通常の目盛りで表示していた時には良く分からなかった驚くべき時間依存性が見えています。 90ns付近でγ線強度が一度0近辺まで落ちた後に再び散乱強度が増加し、その後に再度強度の増減が繰り返されています。 これは非常に簡単化して言えば、干渉的に相互作用している原子核の個数に対応した現象で、このような強度変調はダイナミカルビートと呼ばれています。 また、これは上の数式に示したBessel関数の部分からの寄与によるものとなっています。

Nuclear Bragg
また、単結晶内では原子核が規則正しく整列していますが、そのような単結晶中における原子核の集団を、放射光を用いてパルス励起した後にBragg(ブラッグ)で散乱されてくる放射(核Bragg散乱)の時間スペクトルを以下に示します。このスペクトルにおいては、短い周期の振動構造が観測されていますが、これは原子核と原子核の周辺電子系との超微細相互作用による効果で量子ビートと呼ばれています。 メスバウアー効果のところで触れていますが、原子核のエネルギー準位も電子系の状態によって影響を受けて縮退が解けて準位の分裂やシフトが起こるためです。観測されたスペクトルの形は、量子ビートとダイナミカルビートの効果が相まって、指数関数型とは大きく異なったものとなっています。 また、崩壊時間が桁違いに早くなっていることも分かります。

Decay spctra


さらに、左の図に示すようにパルス励起させた集団原子核からの散乱γ線を特定の時間にだけ制御して崩壊強度を強める研究も行われています。


原子核励起状態の崩壊は常に指数関数型でその寿命は変更できないものと思われる方も多いですが、上に示したように単純な指数関数型だけではなく、早く崩壊させたり特定の時間に強度を強めるようなことも実現されるようになってきています。 また、ここではγ崩壊だけの例を示していますが、β崩壊の場合でも寿命を変更させた研究もあります。 このような研究は基礎的な観点に加えて応用という観点からも大変興味の持たれるものですが、新しい分野であることからまだ未解明の部分も多く、挑戦しがいのある研究となっています。