本稿は「原子力資料情報室通信」No.249(1995年2月)に掲載された。

<ミンスク・シンポジウムでの報告より>

チェルノブイリ事故被曝者ベラルーシ国家登録に含まれる子供の健康状態

 

     A.オケアーノフ他 (ベラルーシ医療テクノロジーセンター)

 


 チェルノブイリ事故は地球規模での放射能汚染をもたらした。ベラルーシ共和国では、全人口の約20%、すなわち65万人の子供を含め220万人もの人々が、1平方km当り1キュリー以上のセシウム137汚染地域で暮らし、「国家的エコロジー災害」が宣言されている。なかでもゴメリ州とモギリョフ州では、1平方km当り15キュリー以上の汚染地域に、子供3万人を含む10万2000人が住んでいる。放射線被曝の健康に及ぼす影響については、これまでにかなりのデータが得られているものの、慢性的被曝の影響についての知識は十分でないことに注意すべきである。大きな集団についての長期にわたるシステマティックなデータの収集と解析によってのみ、そうした被曝による影響の評価が可能であり、事故による健康影響の低減に役立てることができる。

<被曝者国家登録>

 チェルノブイリ事故被曝者のベラルーシ国家登録は1986年に開始された。放射線に対して最も敏感である子供についてのデータは、とりわけ重要である。我々は、国家登録を基にチェルノブイリ事故で被曝した子供についてのデータベースを作り、健康状態のチェックや医療記録の収集など疫学的な調査を実施している。現在そのデータベースには、3万 3488人の子供についての情報が集まっている。子供たちの現在の居住地は以下の通りである。

・ブレスト州228人(0.68%)

・ヴィテプスク州784人(2.34%)

・グロードゥナ州802人(2.40%)

・ゴメリ州2万5486人(76.01%)

・モギリョフ州4056人(12.11%)

・ミンスク州1466人(4.28%)

・ミンスク市666人(1.99%)

 被曝時の状況で分類すると、事故直後にチェルノブイリ30km圏からの避難した子供が6.9%、1平方km当り15キュリー以上の汚染地域に住んでいるかそこから移住した子供が81.4%、親が国家登録され事故後に生まれた子供が11.7%である。男子と女子はほぼ同数である。

 2万1976人の子供についてヨウ素131による甲状腺被曝のデータがあり、そのうち2.61%は、甲状腺からのガンマ線量率が1ミリレントゲン/時以上であった。

<子供たちの健康状態>

 国家登録されている子供たちの健康状態について、1987年〜1992年データの予備的な解析を行い、その結果を、ベラルーシ全体の子供のデータと比較した。登録されている子供たちの健康状態は年々悪化している。完全に健康と認められる子供の割合は、61.3%(1987年)から18.6%(1992年)に減少した。一方、何らかの慢性疾患を持つ子供は、10.9%(1987年)から30.3%(1992年)に増加した。

 子供たちにへの影響で最も心配されているのは、腫瘍発生率の増加である。1992年の腫瘍、悪性腫瘍、甲状腺ガンの発生率を表1に示す。また子供たちの種々の病気の罹患率を表2に示す。ベラルーシの子供たちにおける甲状腺ガンの増加は疑い得ないものである。その他の病気においても、被曝登録された子供たちには、ベラルーシ全体よりかなり大きな罹患率が認めれれている。

 

 以上のように、被曝登録された子供たちのデータは、チェルノブイリ事故で被曝した子供たちの健康状態が悪化を続けていることを示している。なかでも甲状腺の疾患が憂慮されており、内分泌系疾患や甲状腺ガンについては全症例の検査が行われている。子供たちの健康状態についてのこうした大規模で長期的なモニタリングにより、チェルノブイリ事故のような大規模核災害の健康影響の解明、ならびに医学的予防的措置のプランニングと実施に向けて、実際的で理論的な知見が得られるであろう。   (要約 今中哲二)

 

 

 表1 1992年に観察された子供の腫瘍発生率(1000人当り)


       登録された子供          

−−−−−−−−−−−−−−−−−−        ベラルーシ全体    

登録された  30km圏から  15キュリー以上の

全体     避難の子供   汚染地域に居住

               又は移住の子供


腫瘍全体:    1.28      2.76     1.27        0.85

そのうち

  悪性腫瘍   0.92       2.21     0.94         0.12

  甲状腺ガン  0.77       2.21     0.73         0.03

 


 

  表2 1992年に観察された子供の病気罹患率(1000人当り)


                登録された子供   ベラルーシ全体 


    腫瘍全体          4.08        1.75   

     悪性腫瘍         1.84        0.35   

     甲状腺ガン        0.82        0.05   

    内分泌代謝・免疫系疾患   133.78        33.66

    血液系疾患          56.46        12.00   

    循環系疾患          39.58        12.92   

    耳咽喉系疾患         95.89        19.47   

    消化器系疾患        162.91       125.84   

    精神系疾患           27.64        24.49