もともと、原子力は石油の代わりにならない

  日本における最終エネルギー消費の分野別割合を図に示す。最終エネルギー消費全体のうち、電力として用いられる割合は全体の二割、その他の八割は産業・運輸・非エネルギー(化学工業の原料)・民生の分野で石油などの化石燃料が直接用いられている。町工場が原子炉を持つことはできないし、自動車や列車が原子炉を積んで走ることもできない。各家庭に原子炉を置くこともできない。原子力にできることは発電だけである上、原子力発電は小回りの利かない発電方法であるため、基底負荷用のごく一部分としてしか利用できない。したがって、原子力に石油の代替ができると言ってもせいぜいエネルギー消費全体の一割でしかない。現代の社会は石油が無ければ立ち行かないし、もともと原子力に石油の代替などできはしない。

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家庭での節電は役に立つか
 
 私たち一人ひとりが自らのエネルギー使用のあり方を考えることは大切である。また、家庭でのエネルギー使用の節約につとめることにも意味がある。しかし、上の図に示したように、「民生」用として使っているエネルギーの割合はエネルギー消費全体の四分の一でしかない。その上、一口で「民生」用といってもほぼ半分はデパートやオフィスなどの業務用であり、各家庭で使用しているエネルギーはエネルギー消費全体の約一割でしかない。したがって、家庭でどんなにエネルギーを節約したところでその効果は大きくない。
もちろん「運輸」の一部には自家用車の寄与分があるし、「産業」や「非エネルギー」(化学工業の原料)が使っているエネルギーの一部は商品として家庭に分け前が回ってくる性質のものである。当然、私たち一人ひとりが浪費を抑えれば、「民生」として直接家庭で使っている以外にも効果がある。しかし、それでもなお、個々人のエネルギー使用を問題にする以上に、エネルギーを膨大に使ってしか成立しない社会構造、特に産業のあり方を変革しなければ本質的には意味がない。一人ひとりの自覚が社会構造の変革に結びついた時にはじめて、エネルギー中毒社会から抜け出せる可能性が生まれる。




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