石油の可採年数推定値の変遷

 
 地球という惑星は一つの物体である以上有限です。地下に眠っていたエネルギー資源も有限です。石油をはじめとする化石燃料も、厖大に使っていけばいずれなくなってしまうことは当然です。では石油は本当のところ、いつになったらなくなるのでしょうか?
 石油があと何年でなくなってしまうかを評価した値を「石油の可採年数推定値」と呼びます。これは、評価する時点での確認埋蔵量(技術的・経済的に採掘ができる量)をその年における年間消費量で割った値です。その値が歴史的にどのように変わってきたかを図に示します。たとえば、1930年における石油可採年数推定値は18年でした。石油権益を確保しておくことが列強諸国の条件である時代に、この値は著しく短いものでした。そして、このことは長く辛い戦争の動機となり、日本は大陸の資源を求めて中国に侵略を始めました。しかし、この時点での石油可採年数推定値が正しいものであったとすれば、10年後には石油は後8年分しか残っていないはずです。ところが10年たった後の1940年には、石油可採年数推定値は逆に23年に延びました。それでも、23年で石油がなくなってしまうという推定は列強諸国を石油権益確保に動かし、ABCD(America, Britain, China, Dutch)包囲網によって石油禁輸制裁を受けた日本は、太平洋戦争へとのめり込んでいきました。
 しかし長い戦争が終わり、1950年になっても石油可採年数推定値は依然として20年でした。この時点で、石油可採年数推定値なるものがおよそ「科学」的なものではなく、世界的あるいは個別国家的な利害が絡みながら、あるいは技術の進歩によってもどんどんと変わっていくものであることに気づくべきでした。さらに10年後の1960年には、石油可採年数推定値は35年となりました。日本が高度成長と呼ばれた未曽有の経済成長を遂げた頃、石油は後30年でなくなると脅かされ続けましたが、なんと30年たった1990年の推定値は逆に45年に増えています。
 冗談半分に言えば、石油が後20年でなくなるといわれた時代が20年続き、30年でなくなるといわれた時代が30年続きました。いま石油は後50年といわれる時代に入っており、その時代が50年続くと思います。そして50年後には石油はあと100年あるという時代になるのではないでしょうか? 仮にこの冗談が当たらなかったとしても、石油を含めた化石燃料は決して少ない資源ではありません。石油がすぐに枯渇してしまうというような強迫観念にとらわれて、国家やそこに住む人々の運命を決めてしまうことは誤りです。そして、「化石燃料が枯渇するから原子力」という宣伝にも大きな飛躍があります。


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