1999.12.27.
「データ捏造のMOX燃料を高浜4号に装荷させない」闘争に勝利して

MOX燃料使用差止仮処分命令申請事件

元債権者 山内知也


 

●この1ヶ月を振りかえる

<仮処分申立>

 1999年11月19日、福井県、京都府、滋賀県、大阪府、奈良県、兵庫県、和歌山県、に在住する、小山英之以下211名の債権者は、福井県大飯郡高浜町田ノ浦一番地関西電力高浜発電所使用済核燃料貯蔵プール内所在の高浜四号機用MOX燃料集合体八体を、高浜発電所四号機に装荷して使用してはならない、との裁判を大阪地方裁判所に申し立てた(平成一一年(ヨ)第二五六五号)。

 

<「捏造でも構わない!」;関西電力>

 これを受けた債務者関西電力は、その答弁書において、まず、「申立書において債権者らの主張する申立の理由は、要するに高浜四号機の原子炉に装荷されるMOX燃料について、その製造者である英国原子燃料会社(以下「BNFL」という)がそのMOX燃料のペレットの製品の外径の品質保証のために債務者に対して提供する検査データ(以下「検査データ」という)がBNFLの検査員によって捏造されたものであるから、そのような捏造された検査データに係るペレットが混入するMOX燃料を装荷してする原子炉の運転が危険であるということに尽きる。」と要約し、我々の申立の意味を理解していることを示した。彼らは「検査データについて捏造等の不正が認められないことを明らかにし、もって、高浜四号機原子炉のMOX燃料を装荷してする運転が何ら危険のないものであることを明らかに」する、という方針を示し、最後に「本件の高浜四号機原子炉のMOX燃料を装荷してする運転は、わが国におけるプルサーマル計画のなかで着実な技術開発を進め、債務者が周到な準備を重ねて、MOX燃料装荷第一号として行おうとしているものである、債務者は、裁判所が徒に債権者らの主張する繁雑多岐に亙る技術的な論点にかかずらうことなく、本来の争点について判断され、早急に本件申立てを却下されることを求めるものである」と裁判所に対して、およそ債務者にはふさわしくない注文まで出した。「邪魔だてするな」と言わんばかりの、肩で風切る堂々とした答弁書であった。さもあらん、おりしも福井県では県議会が始まるのを待たずに福井県自民党や福井県県民連合がプルサーマルの推進を決議していたのである(レールどころか絨毯まで敷かれていたということか。小浜線の電化や核燃料税の税率アップもすべてプルサーマルがらみであった。これらが「周到な準備」のことなのか?)。

 ところが彼らは、その方針の第一であった「検査データについて捏造等の不正が認められないことを明らかに」することが遂にできなかった。いや、その努力をはなから放棄した。彼らは「抜取検査でも全数自動測定でもその条件を満たすことが可能であるので、どちらで測定したデータを使用しても問題はない」と述べる。すなわち「全数検査をしているので捏造があったところで問題なし」とする方便に逃げた。この頃には、通産省も安全委員会も、福井県も、申し合わせたかのように、この方便を使うようになっていた。哀れな債務者は、同じ方便が裁判所にも通用すると本当に信じ込んでいたに違いない。また、既に作り直しが決まっていた高浜3号機用のMOX燃料についても、「高浜三号機については、ペレット外径が仕様書を満足していることは全数自動測定結果で明らかであるが、BNFLが今回の問題を真摯に受け止め、顧客の信頼を回復することも視野に入れて、燃料の作り直しを申し出たことから、債務者、三菱重工業株式会社、及びBNFLの三者で合意の上、作り直しを行うこととしたものである」と述べ、全てをBNFLの申し出に帰着させた。三号機についても作り直しは必要なかったと開き直ったのだった。自らの立場を明確にする裁判の作業のなかで、債務者はその足元を知らずか知ってか危ういものにしていった(君たちは、BNFLの、あるいはイギリスの一声があればいとも簡単に作り直すのか?君たちの品質管理とはその程度のもの、装飾品なのか?MOX燃料装荷は、さほど急ぎのビジネスではないのだね!)。
 

<裁判所は疑惑を放置できない>

 我々債権者と支援者の、自らの立場を明確にするための格闘も続いていた。一ロット当たり一万個を超える数値データのコンピュータへの入力とグラフの作成である(この作業を献身的に担った債権者と支援者の方々の労苦を称えたい)。債務者が説得力をもつ主張が出来ない一方で、債権者の捏造を示す主張はデータに裏打ちされたものに日々強化された。もちろん、審尋の場でも、上申書としても検査データの入ったフロッピーの提出を債務者に求めたが、彼らは所有していないと言い張った(今日の時点においてもそうである)。

 このような中で12月8日、裁判所から、ロットの品質管理に関する詳しい、しかも極めて的を得た求釈明が債務者関西電力に対して出された。裁判所の最大の関心が疑惑の有無におかれていることが明らかになった。我々はこの時点で勝利を、すくなくとも半ばの勝利を予感することが出来た(どのような決定がでるにしても、疑惑は晴らされていないとの言及があるだろう。そうなった時、債務者は疑惑の燃料を装荷するのか?福井県はそれを許すのか?)。
 

<イギリス発>

 イギリスでは新たな疑惑がくすぶっていた。12月9日、ガーディアン紙の記事掲載、英国原子力施設検査局(NII)の報告書発表(これらを引き出すために債権者のアイリーン・スミスさんが訪英し、すばらしい活躍のあったことを特記しておきたい)。

 12月10日には、国内でも参院経済産業委員会で清水澄子議員が質問。大臣はウソの答弁しかできない。

 12日には関電がBNFLに、13日には通産が職員をNIIに急遽派遣。

 決定が17日に出されることは13日に開かれた「最終審尋」において裁判長自身が明言した(「ガーディアンの予想よりも早く出しましょう、17日ということで。」)。

 15日、通産が清水澄子議員の資料要求に応じて、NIIスタッフの書簡を公表。

 疑惑はもはや消せないものになった。
 

<完勝>

 12月16日、そのNIIスタッフの書簡(11月8日付けNII副主任検査官、B.J.ファーネスから日本大使館経済参事官いのまたひろし氏宛。高浜4号でも複数の捏造のあることを述べている)とその模様を伝える新聞記事を、当初参考資料として、裁判所に提出するが、急遽、審尋が再開されることになる。午後4時のことである。裁判官が関西電力に「なにか反論はありますか」と尋ねる。これが関西電力に対する、データ捏造のMOX燃料装荷に対する、最後の警告であった。週明けまでに関西電力が結論を出すこととなり、決定は翌週に延期される。そして午後5時、債務者である関西電力は、その燃料集合体8体全数の使用を中止することを突如公表した。

 債務者の関電がそれまでの争う姿勢を放棄して、一方的に土俵を降りた。これによって債権者側は完全な勝利をおさめた。17日に債務者関西電力は裁判所に、燃料使用を中止する主旨の「上申書」を提出、債権者側も訴えの利益がなくなったため「取下書」を提出した。同日午後4時に原告団は関電に申し入れ行動を行った。何に対して頭を下げるのか「もうしわけありません」と繰り返す関電社員であった。全数検査をやっているからと主張していたその口からはそれ以外の言葉は出なかった。公開の説明会開催を約束させた。
 

●我々は何を勝ち取り、何が勝ち取れなかったか-

 我々は捏造のあったMOXの装荷阻止を勝ち取った。しかし裁判所からの決定を貰うことが出来なかった。裁判も審理ではなくて審尋であり、書面だけでの論争であった。そのため幾つかのあいまいな、はっきりとしない状況が債権者と債務者、あるいは通産省の間に残された。彼らは全数検査で問題は無く、危険はないと言っている。ところがそれでも作り直すと言うのである。「もうしわけありません」を繰り返す関電であるが、何について謝罪しているのかまるで分からない。裁判の資料に基づいて、これらの基本的な疑問点を確定させることが残された課題である。それには、関西電力が約束した公開の説明会を有効なものにする必要がある。

 その一方で通産省や安全委員会、そして福井県、付け加えれば高浜町の判断というものが如何にいい加減なものであるのかが示されたと言える。面目丸つぶれとなった福井県当局は、「もんじゅ」火災事故当時の姿勢に近づいているようにも見えるが、プルサーマル推進の判断は変えていない。
 

<関西電力>

「当社といたしましては、調査結果の最終報告書に述べるとおり、全数自動測定結果により仕様値を満足していることを確認しておりますが、英国の公的機関が検査データに不正の疑いがあるとしていること、さらに新たなデータの不正が見つかったことから、当社としましては、受け入れた燃料集合体8体全数の使用を中止することとし、本日、輸入燃料体検査申請の取り下げを行う予定ですのでお知らせいたします」(関西電力株式会社12月16日)
 

<通商産業省資源エネルギー庁>

「さらに最終的な判断をする前に、英国当局等の調査状況を確認するべく、12月12日から当省職員を英国原子力施設検査局(NII)に派遣するとともに、併せて関西電力(株)に対しては、BNFL社における調査を再度確認するよう指示した。

 この英国での調査の過程において,NIIが、高浜4号機用ペレットのうち、外径測定データに統計的な疑義があると判断しているものは、ロットP824に加えてP783であることを確認するとともに、引き続き調査を進めることとしていた。

 こうした状況下で、12月16日、関西電力(株)から、新たにロットP814について、外径測定データの不正が見出されたとの連絡がBNFL社からあった旨報告があった。

 同日、関西電力(株)から、高浜4号機用MOX燃料8体全数について、輸入燃料体検査申請を取り下げたい旨連絡があった。当省としては、その旨を了承するとともに、通商産業大臣の指示により、今後同社に対し、詳細な報告を求めた上で、所要の対策を講じることとした。」(通商産業省資源エネルギー庁12月20日)
 

「2.ペレット全数自動計測データは存在するので、安全性は確保できていると考えられるが、11月に報告を受けたもの以外にも品質管理データについて流用するという不正があったことによって、BNFL社に対する信頼が崩れたと言わざるを得ない。今後、関西電力が十分に調査し、対策を確立し、BNFL社の信頼を回復できるまで、輸入することはできないと考える。

 3.従って、BNFL社との関係のプルサーマル計画は遅れざるを得ない。」(深谷大臣のコメント)
 

<福井県>

「県としては、4号機用燃料の装荷については、英国での調査と輸入燃料体検査の結果を踏まえた国の最終判断や、地元高浜町の意見を確認し、最終的な判断を行うこととしていた。

 本日、関西電力株式会社から、「BNFLで調査中のところ、4号機用のペレットで、疑いのある新たなロットが見つかり、4号機用8体のうち4体については装荷しないようにとの連絡をBNFLから受けた。」との連絡があった。県としては、原子力の安全を確保するための前提となる品質管理・保証の問題であることから、関西電力に「8体すべてを使用しないよう」強く申し入れ、関西電力から「今回搬入した8体すべてを使用しないこととした」との報告を受けたところである。

 プルサーマル計画については、関西電力の計画表明以降、県としては、安全が確認されることを第一として、さらに県民の理解が得られるよう、十分慎重に対応してきた。

 今回のMOX燃料集合体のペレットデータの疑義については、問題が判明した後、直ちに、徹底した調査と調査結果の公表、さらには国に対して関係事業者への厳正な指導・監督を行うよう要請し、11月1日には、英国での調査も踏まえ、4号機燃料集合体については、不正がないとの報告を受けるとともに、この調査結果は通商産業省および原子力安全委員会で了承されたところである。

 このような経過にも係わらず、今回不正の事実が判明したことは、重大な問題であり、県民の信頼を大きく損なう結果となり、極めて遺憾である。

 今回の問題は、原子力の安全を確保するための前提となる品質管理、品質保証にかかる重要な問題があるため、関西電力株式会社においては、原子力への信頼感喪失の危機に立たされているという認識に立って、品質保証・管理にかかる再発防止対策の実施に取り組み、国民・県民の不信感の回復に全力で取り組むよう、強く申し入れた。」(高浜発電所4号機用MOX燃料の使用取り止めについて(福井県知事談話)原子力安全対策課12月16日)
  

●我々は何を勝ち取り、何が勝ち取れなかったか-

 我々は立証責任の問題について、女川原発訴訟判決を引用し、次のように主張した。

2.債権者らは、平成六年一月三一日仙台地方裁判所においてなされた東北電力女川原発訴訟第一審判決が明言した以下の原則に立つべきであると主張する。

 同判決は立証責任について、原告側に「原告らは、・原子力発電所の運転による放射性物質の発生、・原子力発電所の平常運転時及び事故時における右放射性物質の外部への排出の可能性、・右放射性物質の拡散の可能性、・右放射性物質の原告らへの身体への到達の可能性、・右放射性物質の起因する放射線による被害発生の可能性について、立証責任を負うべきになる」とし、被告側に対して、「右のとおり、原告らは、既に前記・ないし・の点について原告らの必要な立証を行っていること、本件原子力発電所の安全性に関する資料をすべて被告の側が保持していることなどの点を考慮すると、本件原子力発電所の安全性については、被告の側において、まず、その安全性に欠ける点のないことについて、相当の根拠を示し、かつ、非公開の資料を含む必要な資料を提出したうえで立証する必要があり、被告が右立証を尽くさない場合には、本件原子力発電所に安全性に欠ける点があることが事実上推定(推認)されるというものである」とした。「そして、被告において、本件原子力発電所の安全性について必要とされる立証を尽くした場合には、安全性に欠ける点があることについての右の事実上の推定は破れ、原告らにおいて、安全性に欠ける点があることについて更なる立証を行わなければならないものと解すべきである」と述べる。

 女川判決の特徴は、非公開の資料を公表することも含めて立証責任を電力会社に負わせていることである。今回の関西電力の姿勢は、資料を公表しないこと、立証を放棄することを最たる特徴にしていた。その意味で今回の仮処分申請の決定は債権者(原告)側が勝利し得るケースとして非常に興味深いものがあった。裁判所の決定が、関西電力や政府の姿勢と対立するに至った場合、すなわち、国家権力の内部に原子力政策に関して公然たる対立が現れることがどれほどの意義を持つのか?決定を待たずに関西電力が土俵を降りたことによってそれを知ることはおあずけとなった。このことを嫌った部分、おそらくは通商産業省の意向が、関電の突然の変化に影響を与えたのは間違いないと考える(もちろん、裁判所にとっても決定は出しにくいものであった)。
 

●日本のマスコミ

 高浜4号機用データ捏造MOX燃料の装荷中止のニュースは新聞各紙が一面トップで書いた。日本の原子力政策に対して与えた打撃の大きさに見合うものである。ところが新聞だけからでは、今回の中止と我々の仮処分申請との関係を知ることが著しく困難、不可能である。

 我々はこの裁判が無かったならば、イギリスの新たな情報が日本に知らされることも無かったし、スムースに通産省の検査が終了し、そのまま福井県が結果を鵜呑みにし、MOX燃料の装荷が既に開始されていたであろうことを知っている。もちろん、関西電力は我々の裁判によってMOX燃料装荷を断念したとは認めないであろう。そうではあっても、マスコミが我々の運動を無視する理由にはならないはずである。

 敵が我々の何百倍、何千倍の宣伝力、報道への自在な介入力を持っているということを極めて重大な事実として受け止めなければならない。関西電力や通産省、政府のみならず、マスコミに対しても市民運動がなすべき課題は大きい。東海臨界事故の報道を巡る欧州と日本のマスコミとの報道内容と報道姿勢に見られた隔たりは決して偶然的なものではない。反原発であるか原発推進であるかを別にして、まず事実を知らせるということの責任の果たし方に隔たりがあることを強く感じる。
 

●今後の課題

  我々は「捏造データの高浜4号用MOXを使用させない」という、個別的な課題で勝利した。この成果をもって、他の個別における、更に普遍的な勝利を勝ち取るために何が必要がを考え行動しなくてはならないだろう。その手がかりとしては、

 - 公開説明会とそれに向けた学習会。

 - イギリス、ドイツの運動(BNFLに対する)。スイスのベズナウ原発でBNFL社製のMOX燃料の放射能漏れ事故があった。

 - 東電のMOX(全数検査をそもそもやっていないことが判明)。

 - 地元での運動(高浜町での住民投票条例の運動をはじめとして)。

 裁判で出された関電側の資料や、その過程で推進側が見せた奇妙とも言える振る舞い、海外への反作用の分析とあわせて、如何にしてプルサーマル計画を中止に追い込むか、反原発運動に問われている課題である。