浜岡1号炉事故の概要(中口径配管の水素爆発事故)
   
環境データ 大東断




 
1.想定外の一次系配管内の水素爆発

 外形165mm、厚さ11mmの1次系の中口径配管が水素爆発により何の前触れもなく瞬時に破断した。隔離弁は約30秒で閉じたがこの間に2トンの蒸気が噴出した。もし弁が閉じなければ蒸気は噴いて止まらなくなる。爆発は配管の径の太さに関係なく周辺をアタックする。爆発が引き金になり大事故にいたる可能性もある。
 
 浜岡1号炉で起こった事故はたまたま高圧注水系につながる蒸気凝縮系配管だったが、ドイツで起こった事故では別の系統だった。ECCS系の事故だから問題というのではなく、1次系の配管内で水素ガスがたまり燃焼、爆発が起こり、配管が破断するということが問題である。

 11月7日の爆発事故発生から、12月13日の中電の中間報告で事故を水素爆発にしぼるまでの期間は、水素爆発という衝撃を和らげるねらいがあったと思われる。私たちは破断部の写真で疑い、11月21日の静岡新聞記事で「水素」の除去というの見て、水素爆発との疑いを強くして取組を強めた。中電中間報告は「水素・・・の可能性」としたが、私たちは「水素爆発による配管大破壊事故」と断定し、地球号の危機ニュースレターに記事に掲載した(12月20日発行「地球号の危機ニュースレター」市民エネルギー研究所 安藤多恵子)。

 事故の経過などは別表に中電最終報告の1.事象の概要、2.事象の経過を整理した。別表は 余熱除去系配管破断に係る事象の経過(事象発生時の時系列)である。系の構成や爆発現場の被害状況は、中電中間報告3.余熱除去系蒸気凝縮系配管破断に関する調査,同最終報告3.余熱除去系蒸気凝縮系配管破断に関する原因究明を参照する。

 公式の情報は中電(東芝)の報告書→原子力安全・保安院→原子力安全委員会の原子力・故障調査船本部会ワーキンググループという形で流れるが、ワーキンググループでは原子力安全・保安院が報告説明し、委員が質問するという形で会合が公開されている。できるだけ傍聴や配布資料の入手などでフォローするよう心掛けた(保安院、安全委員会のホームページでもほとんどの資料がとれるが、中電の報告書がホームページで掲載させることができればよいのだが。ただし、未公開資料はもちろんたくさんあるようだ。)

2.水素の発生源に関して
 
原子炉一次系水素の発生源は3つである。

(1)水の放射線分解によって水素と酸素が発生する。主蒸気中の水素、酸素濃度は水素約2ppm、酸素16ppmとされている。

(2)水素の注入:炉内構造物の応力腐食割れ対策として1998年5月から注入され、給水中の濃度は0.34ppmから後に0.1ppmにひきさげられた。

(3)その他:従来から、一次系冷却水の喪失事故(LOCA)時にジルコニウムと水・水蒸気反応で大量に水素が発生し、反応による炉心の崩壊の問題、格納容器が水素爆発に耐えられるかが問題になっていた。しかし、このジルコニウムと水の反応は定常運転時にも事故時ほど急速ではないが進行している。今までの議論では出てないがこの反応による水素発生の量的な評価も必要と思われる。
 
 原子力安全・保安院は放射線分解による水素、酸素の発生で説明、安全委員側から水素注入の問題が追及された。(WGで取り上げられているのは(1)、(2)のみである)

3.中電の最終報告では原因の特定が出来ず、大事故の可能性が残っている
 
 中電は非凝縮性ガス蓄積量の推定、ガス蓄積試験、着火試験、圧力変動試験により水素爆発のメカニズムの解明を試みた。その結果が最終報告としてまとめられたが、水素爆発に至った原因を特定したとはいえない。何故、浜岡の1号炉の余熱除去系で爆発したのかが明らかになっておらず、むしろ他の類似の原発(BWR14基)はすべて水素爆発の可能性があることがしめされている。原因がわからずに余熱除去配管への分岐部にのみ弁をつければ安全という議論は通じない。配管内の水素爆発を防ぐ対策について指針を作成し、水素爆発が起こった場合を想定した安全審査をやり直すべきである。それまでは類似原発の運転を直ちに停止すべきである。

 水素爆発は浜岡一号原発だけでなく、2001年12月14日にドイツでも起こった。事故のメカニズムは浜岡一号原発だけに起きた特殊な状況でなく、ドイツの事故も説明できるものでなければならない。

4.BWRの本質的な問題
  
 一次系の蒸気を直接用いて発電するBWRの本質的な問題が明らかになった事故である。この間、他14機のBWRについても余熱除去系の蒸気凝縮系の配管のみが問題にされてきたが、中電の最終報告はそれがまちがっていたことを示した。

 14機原発の一覧に見られるよう浜岡の1,2号は勿論だが、東電10機など他のBWR原発がどのような対策をとるのかが重要に思われる。東電ははやばやと滞留物の除去の日程をプレスリリースし、また2機は弁を設置、1機はすでに定検中で弁を設置する予定としている。中電の最終報告からは10機以外の炉も対策をとる必要が出てくる。BWR炉はいつ爆発するかもしれぬ水素を配管内に抱えて運転が行われている。

 2002.3.7付けnucleonics weekのブルンスビュッテル原発の配管内事故を知り、3月20発行の「地球号の危機ニュースレター」(市民エネルギー研究所)で取り上げた。

5、原子力安全・保安院は対策を誤った
 
 原子力安全・保安院は水素が高濃度にたまる可能性の高い箇所は、類似の14基BWRの余熱除去系蒸気凝縮系の配管だけとし、2001年11月20日に配管内に存在する滞留物の除去と分岐部に弁をつけるように指示した(調査の中間とりまとめ)。各炉における水素蓄積の有無など基本的な原因究明を行わなかったばかりでなく、弁をつけるという安易な方法で電力会社が安全審査をすりぬける手助けをした。
 
 しかし、中電の最終報告は余熱除去系蒸気凝縮系を撤去するとしている。他の原子炉も使用しておらず、かつあれば水素爆発の危険があるのだから、原子力安全・保安院は弁の設置ではなく蒸気凝縮系の撤去を指示すべきである。
 
 中電の最終報告は水素爆発の可能性のある箇所を選んだ方法では、結局安全対策として不備があることを認めている。余熱除去系蒸気凝縮系配管以外でも「温度測定や配管勾配の見直し、再結合器設置等の設備変更の対策を行う」としている。原子力安全・保安院は電力のいうなりでなく、安全サイドにたって対策をたてなければならない。
 
 調査の中間とりまとめでは、「計装系の配管については・・・、仮に水素燃焼があったとしても破断する可能性は低く、・・・抽出対象から除外している」と記述していろが、これは計装系の同種事故の経験があったことを疑わせる。
 
 中電の最終報告で、重要な計装系及び器機に対する対策が再び取り上げられていることは重要である。過去の配管内の水素燃焼や爆発に関する情報があれば、直ちに明らかにするべきである。