Brunsbuttel原発の水素爆発による配管破断事故について

   
 市民エネルギー研究所 安藤多恵子




 
T.事故の経過
 
 2001年12月14日午後1時08分、格納容器内に放射性蒸気が出ていることがわかり、運転側は頂部スプレー系のフランジからの漏れの事故として、4分後に隔離弁を閉じて問題解決とした。

 12月17日、電力側は「フランジのパッキン部分の漏れ」と、シュレスヴィッヒ‐ホルスタイン州の金融エネルギー省(MFE)に報告した。

 しかし、MFEは詳しい報告を求めた。また、TUV(技術監査協会)に調査を依頼した。

 12月18日、MFEは電力会社HEW(ブルンスビュッテル原発=KKBの所有者)に対して、報告して欲しい質問のリストをつくった。

 12月19日、KKBとの話し合いの中で、MFEは電力会社の調査項目に、水素のガス爆発が原因である可能性についても入れるように要請した。

 12月21日、TUVにこのまま運転を続けても大丈夫かどうかの調査を依頼した。

 KKBが,最初の報告を行った。「報告しなくても良いレベルの事故」として、パッキン部からの漏れであろうとの推定を示した。

 2002年1月16日、TUVが「蒸気の漏れが圧力容器のヒビ割れによるものではない可能性があれば運転しても良い」という結論を出した。MFEもこれに従ったが、データをよく調べたらKKB側の説明がおかしいとの結論に達し、さらに詳しい資料(データ)をもとめ、同時に現地視察を求めた。

 1月17日、KKBは、1月中に視察を可能にするといった。

 1月25日、KKBは、「視察の必要はない」として新しい報告書を出した。また、MFEから出されていた,“基準以上の圧力がかかっていたのではないか”という疑問を否定した。

 2月5日、MFEは再度現地視察を要求し、2月13日までに結論を出すように求めた。(もしもHEW社が拒否するならば、連邦政府からも2月19日に停止命令をする書類を用意した)

 2月18日、電力側が譲歩し、原発を10%にダウンして視察が行われた。フランジ部からの漏れではなく、明らかに爆発によって、格納容器内の原子炉頂部スプレー系の配管が3mに渡って吹っ飛んでいた。(写真参照)また、圧力容器から出たところにある逆止弁(TC03S206)は強い圧力を受けて“捻挫して腫れているような”状態になっていた。

 2月21日、運転停止。

 この間HEW社は、フランジの漏れに固執して重大な事が起きている可能性を認めなかったが、自分たちの説明と実際の測定値の報告との矛盾はどんどん大きくなっていき、報告説明が正しいかどうか判らなくなっていった。

U. 視察の根拠とした数々の疑問
 

  1.  爆発したところにある2つの温度計が、数秒の間に60℃の温度差を記録している。
  2.  直ぐ近くにある火災報知器が作動している。
  3.  一次冷却水が、4分間に200リットルの水漏れをした。
  4.  振動探知機が爆発の時点で反応している。
  5.  格納容器の中の圧力と温度が、事故が報告された時間とその後にはっきりと上昇している。
  6.  普通に運転している場合に、弁などの遠隔操作システムがきちんと作動しない時に信号を発する装置が、信号を発していた。
 特に視察の根拠となった4つの問題点
  1. 温度と圧力のデータが286℃/70圧力と変化があり、詳しく調査する必要があると判断。
  2. 水漏れの量が、4分間で200リットルだから1時間では3000リットルになると主張した。(基準値350リットル/h)
  3. 振動感知するとアラームがなる3つの弁が、弁の開閉をしないのに感知した。
  4. 事故時前後、圧力容器の周辺にある音を感知する装置に、変化の記録があった。
V.シュレスヴィッヒ‐ホルスタイン州行政がとった対策

* 破壊された破片を全部集めて保存すること。
* 報告書には、現場の状況写真を撮り、事故の原因、パイプのシステムについて、頂部スプレー系 
  配管とその周辺の構造付属物にどれだけの圧力がかかっているか等のデータを出すこと。
* 爆発前に起きたいかなることも報告すること。
* 事故検討のための配管の研究、必要な実験をどのようにするのかのコンセプトをつくること。
* このような事故が起きたときに、直ぐに発見できるシステムをつくること。
* 過去に、分らないままにガス(水蒸気)が溜まっていなかったかどうかを調べること。
* 責任者の鑑定を出すこと。責任者の専門知識と信頼の問題に対する分析・意見を表明すること。
 
以上のことは、連邦の原子炉安全委員会から認められたものである。

W.連邦政府(国)環境省の関わり
 
 大事故なので連邦の環境省と一緒に調査をするが、運転再開に関する権限は州政府にある。
 連邦の環境省は、他のBWR原発がある州に、「ブルンスビュッテル原発で起きたことを踏まえて調べように」要請する等、州の関係省と協力し合う。

X. 専門家の間では大きな問題に
 
 水素爆発でBWR型の格納容器の中にある、1つの配管が3m余完全に破壊されたのは、今までのドイツの原発事故の中では、今回の事故が一番大きなものであった。
 爆発の場所が頂部に近く、あと3−4m圧力容器に近い方であったら、圧力容器が部分的に破壊されたであろう特別な事故であった。そうなると冷却水が漏れ、ECCSが作動する事故になったであろう。この場合、予定通りにECCSが機能すれば、放射能は設備が認可された時の許容範囲ではあっても、どこまで漏れたかは分らない。
 
 専門家、ケルンのGRS(施設の安全と原子炉安全協会)のメンバーの一人は、よりシビアな状況を想定した。もしも逆止弁が吹っ飛んでいたら(この弁が壊れなかったのは本当に偶然でラッキーだった)、爆発の勢いで配管が格納容器を鉄砲弾で打ったように穴をあけ、しかも圧力容器から出た直ぐの配管も一緒に吹き飛んだであろう。そうなると放射性蒸気が建家にも行き、周辺にも出たであろう。それは、ECCSが機能して原子炉が自動的に止まったとしても、環境への放射能漏れは避けられなかったであろう....。

Y.事故の評価
 

  • 誰も怪我をせず、漏れた放射能は、許容値を超えなかった。にもかかわらず、12月14日の事故は重大であった。
  • なぜ危険かというと、この事故が、格納容器のもっと上部で起きたら大変なことになっていた。また、水素爆発等、安全問題に、新しくて複雑な問題を示している。
  • 事故(の問題)が大きいので、GRSと連邦が事故の解明に加わった。
  • HEWに対して信頼性の問題が起きている。マネージメントの問題を、原子力法に基づいた信頼性の問題にするべきなど、専門性と信頼の問題を深く問う。
  • なぜ早くとめなかったのか。経済性の意味を追求したい。経済的な考慮が、安全性を上回ってはいけない。
  • 電力市場の自由化と関連していないかを検討しなくてはならない。電力市場が自由化されても、原子子力施設では、止めるための安全基準が保障されなければならない。


Z. ブルンスビュッテル原発の運転再開の前には以下のことが求められている
 

  1. 事故のメカニズムが完全に解ること。(事故が起きた配管、TC03Z206/100の中に水素がどこから来たのか解っていない。)
  2. 2度とこのような事故が起こらないような、安全のテクニックが、保障されなければならない。壊れた配管の残りがシュタットガルトの機械試験所で調べられている。
  3. 爆発で壊れたところは、きちんと直す。
  4. 運転側の信頼性がまだ存在しているかどうか検討しなければならない。(MFEが分析をして 視察を申し入れたのに、直ぐに受け入れなかった等)
  5. MFEは、事故が起きた日に働いていた人へ何らかの音を聞いたかどうかのアンケート取る予定である。また、HEWに対して、事故時に周辺で起きた二次的な損害を分単位で明らかにする事を求めている。
  6. 放射性ガスが配管に溜まるのを防ぐ対策を原子炉全体ですること。また、圧力容器に入って行く頂部スプレー系の配管が爆発したのであるから、これは新しい設計にしなければならない。


 州政府も連邦政府も、爆発事故が解明されるまで徹底的に原因を追求し、運転再開をしないことでは一致している。
 

ニュースレター地球号の危機 263号(2002・5月号)より
ブルンスビュッテル原発に関するシュレスヴィッヒ-ホルスタイン州政府報告書(2002・3・2)
シュレスヴィッヒ-ホルスタイン州 MFE エネルギー担当次官 フォイクト氏へのインタビュー (2002・4・9)
連邦(国)の環境省 2月25日レポート
シュピーゲル2002・4・8号の記事"手榴弾が破裂したような”