所長ごあいさつ

所長

 京都大学複合原子力科学研究所(以下、複合研)は、前身の原子炉実験所(1963年設立、2018年複合研へ名称変更)時代を含めると、今年で60歳という節目の年を迎えます。複合研には、2基の原子炉施設(研究用原子炉KUR、臨界集合体実験装置KUCA)、多彩な加速器施設、大規模なホットラボラトリ等、が設置されています。大学の附置研究所として、これほど多彩な施設を有するところは他に無く、複合研は、世界でも類を見ない稀有な教育・研究機関として、国内外から認知・期待されています。このような独自性をいかして、これまで、複合研は、文部科学省から認定された共同利用・共同研究拠点として、我が国の教育・研究に貢献してきました。

一方で、福島第一原子力発電所の事故を受けての新規制基準への対応や施設の老朽化といった影響力の大きな波が、複合研にも押し寄せてきています。このような波の影響に加えて、米国への使用済燃料の返送期限の関係から総合的に判断した結果、2026年5月でKURの運転を停止することを正式に決定しました。とはいえ、もう一つの原子炉施設であるKUCAは、核燃料の低濃縮化をはかったうえで継続活用していきますし、いくつかの加速器施設は、KURの代替中性子源として活用していくことを考えています。また、ホットラボラトリは、放射性同位元素や核燃料物質を、実際にその場で取り扱うことのできる施設として、老朽化対策を施したうえで、継続活用していくこととしています。このような施設面の将来計画と並行して、研究面の将来計画も確立しつつあります。2021年度末には、その時点での複合研ロードマップが策定され、「新型原子炉研究・廃止措置研究」、「多様な放射性同位元素利用研究」、「多様な量子ビームの利用研究」が、今後注力していく三つの研究の柱として提示されています。

今後数年間は複合研にとって非常に重要な時期になります。決めなければならないことが、たくさんあります。例えば、KUR運転停止後の研究所の目指すべき方向性や、方向性が定まったうえで、具体的にいつだれがどこでなにをおこなうか、といったことです。前途多難ですが、良いニュースもあります。福井県のもんじゅサイトには、KURのほぼ二倍の出力を有する新試験研究炉が設置される予定となっています。複合研は、現在、JAEA、福井大学と連携して、この新試験研究炉の詳細設計に携わっています。熊取サイトには、2023年4月、新研究棟が建設されました。人間でいえば還暦を迎えた複合研ですが、気持ちも新たに、明るく楽しく若々しく、人が集う魅力的な研究所を目指して、今後も全国共同利用研究所として、複合原子力科学に関する教育・研究を進めてまいります。これからも皆様のご理解・ご支援を賜りますようよろしくお願いいたします。

京都大学複合原子力科学研究所 所長・教授 黒﨑 健