講演要旨

 

 植物はご存じの通り水と養分元素で生育しますが、実際に水や養分元素がどのように吸収されているかについてはほとんど知られていません。そこで私たちは放射線や放射性同位元素(ラジオアイソトープ)を利用して水や養分元素の分布、それらのふるまいについて可視化解析を行ってきています。まず、中性子線を用いて植物内の水特異的な像を得、次に、半減期がわずか2分の15O(酸素15)で標識した水を用いて植物が吸収する水のふるまいを定量的に調べてきました。その結果、植物体内での水循環が初めて明らかになりました。また、養分元素の吸収の様子をリアルタイムでイメージングするため、数多くの種類のアイソトープを用いたリアルタイムイメージング装置を開発しています。放射線イメージングなので、蛍光イメージングではきわめて困難な定量的な解析が可能です。さらにミクロイメージングでは画像の高解像度化にも挑戦しているところです。

 使用しているアイソトープは、32P(リン32),35S(イオウ35),45Ca(カルシウム45)などよく使われている放射性原子核のほか、28Mg(マグネシウム28)や42K(カリウム42)などの調製もこころみています。また14C(炭素14)で標識した二酸化炭素ガスの固定動態も可視化できるようになりました。

 これらの放射線や放射性同位元素を用いた植物のイメージング解析について、なるべくわかりやすく紹介します。

 

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「放射性のリンを使って植物のリン酸吸収の様子を調べる」:ミヤコグサのリン酸吸収

 

 

 

講演者略歴

 

小林 奈通子(こばやし なつこ)
2009年3月、東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了(農学博士)
2009年4月‐2010年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任研究員
2010年4月‐2013年3月  学術振興会特別研究員RPD
2013年4月‐2014年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科 特任助教
2014年4月より      東京大学大学院農学生命科学研究科 助教