講演要旨

 

 「ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)」とは、ホウ素を含む薬剤をあらかじめ選択的に腫瘍細胞に取り込ませておいた後、中性子を照射し、ホウ素と中性子との核反応により発生する重荷電粒子により、がん細胞を破壊する療法です。発生する重荷電粒子の飛程は細胞レベルのため、ホウ素の取り込みが腫瘍細胞に限局されていれば、高い治療選択性が期待できます。京都大学原子炉実験所では、1990年より、京都大学研究炉(KUR)を用いた臨床研究を開始し、悪性脳腫瘍、悪性皮膚黒色腫、難治性頭頸部腫瘍、多発性肝腫瘍、胸膜中皮腫、等にBNCTを適用してきています。2009年には本実験所に加速器を用いたBNCT照射システムが設置され、2012年に世界初の加速器BNCTが実施されています。現在、加速器BNCT照射システムは国内外の様々な研究グループにより開発されており、BNCTは特殊な粒子線治療法から一般的な療法へと移行しつつある状況にあります。この移行の推進のためには、照射システムの開発だけでなく、線量評価システム等の医学物理および物理工学面での整備・改善も重要です。BNCTを支える医学物理・物理工学の現状および将来展望について紹介します。

 

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図1:京都大学研究炉(KUR)重水中性子照射設備
BNCT臨床研究だけでなく、関連する医学、 生物学、化学、薬学、物理、工学、 各分野の基礎研究に用いられています。

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図2:線量評価統合システムの一例
BNCTにおいては、中性子、ガンマ線、 ホウ素に由来する線量等の様々な 線量成分の分離評価、ならびに、 これらの線量を統合した全線量の 総合評価が必要です。BNCTに係る線量評価の統合化、 多次元化、リアルタイム化、簡便・低労力化を目指しています。

 

 

 

講演者略歴

 

櫻井 良憲(さくらい よしのり)
1995年3月 京都大学大学院工学研究科原子核工学専攻博士後期課程修了
1995年4月 2006年3月、京都大学原子炉実験所・放射線生命科学研究部門 教務職員、助手官
2006年4月 2008年3月、札幌医科大学医学部・物理学教室 講師
2008年4月 現職

 

 

 

研究テーマ:

BNCTに関する医学物理・物理工学的研究。