2003年9月26日
京都大学原子炉実験所
所長 代谷 誠治 殿
原子炉利用研究者グループ
代表幹事 中西 孝
(金沢大学理学部教授)
京都大学研究用原子炉運転継続の要望書
京都大学研究用原子炉(京大炉)は,1964年の運転開始から今日までの約40年間,全国大学共同利用施設として利用され,研究・教育の両面で多大な成果を挙げて来ました。原子炉の制御系,ホットラボなどの附帯施設なども最近更新され,これからさらに原子力及び放射性同位元素・放射線に関係する研究・教育が推進されると期待しておりましたが,最近になって燃料問題等のため2006年3月をもって運転が休止される見込であることを知り,原子炉利用研究者一同は大変憂慮しています。
すでに立教大原研と武蔵工大原研の研究用原子炉がそれぞれ困難に直面して運転中止に追い込まれ,いままた京大炉の運転が休止されると,これまで研究用原子炉を利用して研究・教育を推進してきた全国の100に及ぶ研究グループが研究の生命線である施設を失い,それぞれの研究・教育を行う上で危機的な状況におかれることになります。ある程度の研究者・学生は原研等の原子炉を利用して研究・教育を継続することは可能でしょうが,すべての原子炉利用研究者の要求に対応できるか甚だ疑問です。そもそも原研の研究用原子炉も京大炉と同様に燃料問題で2006年以降運転できなくなるのではないかという危惧があります。
事態の深刻さは原研等の原子炉で原子炉利用研究のすべてに対応できるか否かという量的なことだけではありません。質的に異なるのは,種々改善の余地もありますが,京大炉では研究者自らが原子炉や周辺装置の運転・管理にも直接かかわっているので,所外の共同利用者はそれらの研究者と相互に啓発することに加えて,運転条件等の具体的な問題を議論しつつ研究が進められることであります。また,研究施設だけでなく大学の教官たる研究者がいる研究環境に学部学生・院生の身を置かせることにより,そのような施設を持たない大学では到底できない,広い意味の原子力研究における人材育成という効果を挙げることができます。教育の効果をデータをもって示すことはなかなか困難ですが,かつて京大炉の共同利用研究に参加した多くの学生が社会に出てから原子力及び放射性同位元素・放射線利用の分野で活躍し重要な役割を担ってきていることは紛れも無い事実であり,京大炉が原子力関連教育に果たす役割の大きさを示しています。
研究が成果を挙げるまでには失敗の連続があり,成功するまで研究を営々と続ける風土が研究のレベル向上には不可欠です。京大炉には ノーベル賞受賞者など多数の優秀な人材を輩出してきた京都大学の伝統とされる自由の学風があり,実験装置の改良に柔軟に対応し,アイデアを迅速に実験に取り込むことが比較的容易です。ここに大学の,とくに京大の,原子炉利用の多くのメリットがあります。目的指向型のプロジェクト研究に重点を置く研究機関でこのようなことを行うのは無理があるでしょうし,創造的あるいは萌芽的な研究を育てていくのも困難であろうと考えます。エネルギー資源に乏しい我が国では原子力利用は不可欠であり,エネルギー確保のために日の当らない原子炉利用研究にも目を配って原子力研究の基盤を広げる必要があります。世界でいま注目されている分野だけを近視眼的に支援するのでは,先端研究のトップに立つことができないばかりか,エネルギー問題解決の将来を担う人材を育てることもできません。これまで約40年間にわたって原子力及び放射性同位元素・放射線の利用に関する研究と人材育成に貢献してきた京大炉の休止が長びくことによって日本の原子力利用の将来が危うくなると言っても決して過言ではありません。
燃料問題,財政問題,地元交渉など 2006年4月以降 京大炉の運転を継続するにはさまざまな障害があることは承知しており,一時的な休止もやむを得ないと考えますが,原子炉の健全性に問題が生じない限り 京大炉の運転休止期間を可能な限り短くして運転を再開・継続し,原子力及び放射性同位元素・放射線に関係する幅広い研究に供されるよう利用研究者を代表して強く要望いたします。
原子炉利用者グループ幹事会
代表幹事 | 金沢大学理学部 | 教授 | 中西孝 |
幹事 | 大阪大学大学院工学研究科 | 教授 | 竹田敏一 |
大阪大学大学院理学研究科 | 教授 | 篠原厚 | |
大阪大学大学院工学研究科 | 助教授 | 山本敏久 | |
北海道大学大学院工学研究科 | 教授 | 島津洋一郎 | |
東北大学加齢医学研究所 | 教授 | 福田寛 | |
東北大学大学院工学研究科 | 助教授 | 岩崎智彦 | |
人間環境大学人間環境学部 | 教授 | 片山幸士 | |
名古屋大学大学院工学研究科 | 教授 | 山根義宏 | |
京都大学大学院工学研究科 | 教授 | 森山裕丈 | |
北海道大学大学院工学研究科 | 教授 | 鬼柳善明 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 川野眞治 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 山名元 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 福永俊晴 | |
京都大学原子炉実験所 | 助教授 | 宇根崎博信 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 藤井紀子 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 大久保嘉高 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 小野公二 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 内海博司 | |
京都大学原子炉実験所 | 教授 | 義家敏正 | |
京都大学原子炉実験所 | 助教授 | 三澤毅 |