京都大学臨界集合体実験装置 (KUCA)

 京都大学臨界集合体実験装置(KUCA:Kyoto University Critical Assembly)は、固体減速架台2基(A,B架台)軽水減速架台(C架台)の3つの集合体からなる複数架台方式の臨界集合体です。12角形の建屋を4つに区切った区画にそれぞれ配置され、各区間は遮蔽壁(一部可動)で隔てられています。複数架台方式でありますが、計測制御系統は1組しかなく、同時に2つ以上の集合体を運転することはできません。架台を置かない残りの1つの区画には、パルス中性子発生装置があります。KUCAは全国の大学の共同利用施設となっており、炉物理、炉工学の基礎的な研究に利用されています。

KUCA棟水平断面図 制御室

 一般に臨界集合体実験装置とは、主として新しい型の原子炉を設計するようなとき、各種の計算コードによって炉心を設計し、最終的に臨界集合体実験装置によってその妥当性を検討するために用いられます。特徴して、出力が低く、通常1W以下で運転します。KUCAの場合は0.01W程度の運転が多いようです。このように出力が小さいため、核分裂生成物(FP:Fission Product)の蓄積が少なく、Xeなどの蓄積の問題もありません。また炉心から漏れる放射線はそれほど強くないため、高出力の原子炉に見られるようなコンクリートの生体遮蔽はなく、主に建屋の壁で遮蔽されます。このような理由から炉心の組替えは容易であり、様々な炉心を構成することができます。

 A、B架台

 A、B架台は黒鉛やポリエチレンを減速材に用いた固体減速架台です。A、B架台はほぼ同じ構造をしており、以下にA架台の構造について説明します。炉心を構成する燃料体、および反射体は高さ約1.5m、水平断面積5.43cm×5.43cmのアルミニウム製中空鞘管の中に、ポリエチレンや、燃料体セルを積み重ねたものです。反射体はアルミニウム製鞘管の中に角柱ポリエチレンのみを入れたものです。一方、燃料体は、1/4"厚ポリエチレン、1/8"厚ポリエチレン、93%濃縮ウラン・アルミニウム合金をエポキシ樹脂コーティングした1/16"厚の通称EU板を重ねたものを単位セルと呼び、その単位セルを36セル積み重ねます。その36セルをポリエチレンではさんで燃料体を構成します。



KUCA‐A架台における炉心構成の概念図

 このような反射体および燃料体を炉心配位置図のように、格子板上にならべることで炉心を構成します。C1からC3、S4からS6は、制御棒または安全棒であり、中性子吸収材の無水ホウ酸をアルミニウムで囲ったものです。この吸収体は、電磁石により駆動装置に接続されており、緊急時には電磁石の電流を切ることにより、吸収体が重力によって落下し、炉を停止する仕組みになっています。また「か‐14」〜「か‐16」、「よ‐14」〜「よ‐16」、「た‐14」〜「た‐16」の9つの集合体(B架台の場合は25の集合体)は中心架台とよばれ、上下に可動し、炉組替えなどの作業中は炉心の下に、炉心の起動時には上に可動させ、制御棒とは独立した系統の原子炉停止機構として働くようになっています。また中心架台を上下に動かすために、あるいは燃料集合体の転倒を防ぐために設けられた「菓子折り」と呼んでいるアルミニウム製の支持枠が存在します。(例えば「13」と「14」の間、「16」と「17」の間)



A架台の炉心配位置の例

B架台(上から) 制御棒など 炉心(上)、中心架台(下)

 またKUCAには加速器が付設されており、現在、A架台のみにビームを打ち込めるようになっています。よってA架台にはトリチウムターゲットが設置されており、ここで等方的な14MeVの中性子が発生します。

 C架台

 C架台は減速材に軽水を用いている軽水減速架台です。燃料体は、93%濃縮ウラン‐アルミニウム合金燃料をアルミニウムで被覆した燃料板を、アルミニウム製の燃料板要素支持フレーム(以下、燃料フレーム)に装荷したものです。この燃料体を直径、高さともに2mのアルミニウム製炉心タンク内にあるステンレス製の格子板の上にいくつか装荷し、制御棒・安全棒、中性子源挿入管、各種検出器を配置して炉心を構成します。C架台の炉心概念図を下図に示します。



KUCA‐C架台における炉心構成の概念図

 C架台では、燃料体に配列の周期(燃料配列ピッチ)を約3.0mm、3.5mm、4.5mmより選ぶことができるように、3種類の燃料フレーム、すなわちC30、C35、C40が用意されています。燃料板と、燃料板間の軽水減速材領域とを組み合わせた最小単位を「格子」と呼んでいますが、燃料配列ピッチが3種類あるということは、言い換えれば、炉心の単位体積あたりに含まれるウランと水素の原子数比(H/U)が異なる3種類の格子があるといえます。このように、異なる格子を選ぶことにより、炉心の中性子スペクトルを変化させた実験が可能になります。またC架台では、燃料フレーム中の燃料板の枚数を1枚単位で変更したり、燃料体の配位置の仕方(炉心の形状)や、減速材の水位を変えることで様々な実験が可能です。



燃料フレーム

 このような燃料体などが配列された後に、減速材および反射材である軽水を炉心下部より供給して炉心を構成します。炉心構成の例を下図に示します。A架台と同様にC1からC3、S4からS6は制御棒、安全棒で、中性子吸収材として、円筒状のカドミウム板を用いています。吸収体は、電磁石により駆動装置に接続されており、緊急時には電磁石を切ることで、吸収体が重力により落下し、炉を停止する仕組みになっています。またNは、炉の起動のために必要な外部中性子源であり、Am-Be(7.4×1010Bq、中性子強度 5×106n/s)を用いています。また隣接するフレーム間には、フレーム長辺側に1mm、短辺側に2mmのギャップができるようになっており、運転中はこのギャップにも軽水が満たされます。



炉心構成の例(平面図)

C架台(上から) 制御棒など 燃料フレーム
 KUCA付設加速器

 KUCAには付設加速器としてコッククロフト・ウォルトン型の加速器が設置されています。ここでは重水素を加速し、A架台室にあるトリチウムターゲットに衝突させることで3H(d,n)4He(D‐T反応)による14MeVの高エネルギー中性子が発生します。イオン源としては単体で12mAの重水素を取り出すことができるデュオプラズマトロン型イオン源です。加速電圧(最大300kV)は絶縁変圧器型電源で発生させ、高圧ケーブルで電極に印加されます。パルス化は平行電極に3kVを印加することによりビームを偏向させ、アーク放電をパルス状に同期させて3kVをカットすることによって行っています。加速管出口からターゲットまでは約7mで、その間Q‐レンズ(タブレット)1基、電磁式ビーム偏向装置1基でビーム輸送を行っています。

加速器の主な仕様
加速器名 KUCA付設中性子発生装置
加速粒子 d+
最高エネルギー 300keV
平均電流 60μA
ピーク電流 6mA
パルス幅 200ns〜100μs
繰り返し 10〜100μs
主な用途 加速器駆動未臨界炉
中性子入射用

 中性子発生用のトリチウムターゲットは、2.5cm径の銅版にTiを蒸着してトリチウムを吸蔵させた”gas‐in‐metal”で、通常10Ci程度のものを空冷して用いています。トリチウムがターゲット裏面やO‐リングから侵入するのを防ぐため、ターゲット裏面をカバーして冷却空気が大気中に開放させない仕組みをとっています。現在は、トリチウムによる汚染を最小限にとどめるという配慮から、トリチウムターゲットはA架台のみに設置され、加速器と臨界集合体を連動して使用する実験はもっぱらA架台で行うこととしています。



KUCAパルス中性子発生装置

加速器 ターゲット

さらに詳しい内容は、京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)ホームページをご覧下さい。
http://www-j.rri.kyoto-u.ac.jp/CAD/

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