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Mössbauer(メスバウアー)効果測定による物性研究

Mössbauer(メスバウアー)分光法は、原子核の周辺の電子系が超微細相互作用を通して原子核のエネルギー準位に与える影響を、無反跳核共鳴吸収効果を利用して鋭敏に捉える事で、電子系の情報を得る事が出来ます。
Hyperfine Interaction
電子系の測定のために原子核を通して測定するメリットは何でしょうか?一つは、測定しようとする電子系を直接観測しないため、測定しようとする対象に与える影響が殆ど無視できるところです。もう一つ重要な点は、元素(同位体)を特定して測定が可能なことです。 現代の先端的な物質科学では鉄や銅などの金属単体についての研究を行うことは稀で、幾つかの元素から構成される化合物についての研究が多くなっています。単体の物質を研究するにしても微量の元素を添加するなどして、その性質を変化させたりしています。 このとき、物質全体の情報を得ることは重要ですが、それにとどまらず各々の原子がどのような状態になっているかを調べることがその物質を理解するためには重要になってきています。 このとき、原子核の励起エネルギーそれぞれの原子核で異なっており、さらにメスバウアー効果のところで説明したように線幅が大変狭いため、違った原子核を同時に測定しないように出来ます。 つまり、原子核を通して測定することで、元素(正確には同位体)を特定して各原子の電子状態を測定することが可能となるのです。左下の図はFをドープすることによって超伝導を発現する高温超伝導体の母物質であるLaFeAsOです。 この物質には4種類の元素が含まれていますが、ドープによって超伝導を発現した場合にはFeが超伝導と大きく関連していると考えられています。メスバウアー分光法では、この物質の中でFeの状態だけを観測することが可能で、右下の図は4.2Kで測定したFeのメスバウアースペクトルです。 これからFeサイトが磁性を有していることが分かります。
LaFeAsO Mossbauer
ここで、元素と同位体の違いをもう少し考えてみますと、例えばFe元素についてですが、自然界には同位体として54Fe、56Fe、57Fe、58Feが存在しています。 この違いを有効に利用出来ないでしょうか?左の図は、FeとCrの金属多層膜を示しています。多層膜は先端的なスピン・エレクトロニクス分野や光学分野などでも盛んに利用され研究が行われているもので、組み合わせる元素や厚さなどを変えることで新しい機能を持たせることが出来るものです。 ここで、例えばこのような多層膜において”Cr層との界面”と”Fe層の中間部分”の違いを測定したいとしたらどうでしょうか?先ほど、原子核を区別して測定することが出来ると書きましたが、57Feだけを測定することにして、 下の図のように1原子層だけを57Feにした試料を用意すればこれらの違いを明確に区別可能です。 これらのスペクトルは明確に違ったスペクトルとなり、それぞれの電子状態を明確に異なっていることを明らかにすることが出来ます。
FeCr Mossbauer
このように、原子核と通して電子系を測定するというアプローチですが、”違ったアプローチにはそれぞれ違った特徴”があるもので、それを活かして行ければと考えて研究を進めています。

Mössbauer(メスバウアー)効果測定法

Mössbauer(メスバウアー)効果測定では、測定をおこなう同位体の基底状態に遷移する準位を持つような放射性(RI)同位体をγ線源として用います。 このγ線を測定試料に照射し、透過してきたγ線を検出器で測定します。 このとき超微細相互作用によって準位が分裂したりシフトする効果を見るために、エネルギースキャンを行いますが、それにはγ線のエネルギーに対するドップラー効果を使います。 このエネルギースキャンによって、γ線源と測定試料の共鳴準位がちょうど同じになったときに、試料によって吸収が起こります。 吸収されたγ線は再びγ線として放出されたり、γ線の代わりに(内部転換)電子として放出されたりします。 再放出されたγ線の方向は(同方向のものもありますが)全方向に放出されるので、エネルギーが違っていた場合に透過してくるγ線よりも少なくなります。 このようにしてγ線のエネルギーを関数として透過γ線強度をプロットすると、エネルギーが同じになったところで吸収によるディップが現れます。 これがメスバウアースペクトルと呼ばれるものです。慣習的には、横軸のエネルギーをドップラー速度で表すことになっています。
   Mossbauer_method

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