敦賀原発2号機(PWR 116万KW)事故(1999.7.12) 
                         久米三四郎 
                      (1999.12.27 KUR安全ゼミ)

 
1.事故の概要

   発生時:1999.7.12, 6:05

  現象:一次(原子炉)冷却水を原子炉に出し入れ(「抽出」、「充てん」)する経路に設けられている「再生熱交換器」内のステンレス製連結配管(外径89mm,厚さ11mm)に、長さ約80mmの亀裂が生じ、高温(約250℃)・高圧(約160気圧)の一次冷却水が噴出。その後約14時間にわたって大量(公式発表;51トン)の冷却水が漏れ続けた。(図1図2

  事故対応:
    @漏洩認知;「加圧器水位」の低下で
    A原子炉停止操作;
      ●事故発生5分後に充てんポンプを「高圧注入モード」に
      ●7分後に「原子炉停止」を決定
      ●19分後に出力降下開始(300%/hr)
      ●43分後(8.1万KW)に手動スクラム
    B漏洩箇所確認;
      12時間40分後に「原子炉格納容器」に4名立ち入り確認(「非常時運転手順書」にある「パトロールによる格納容器内点検」は、被ばく回避のため実施せず)
    C漏洩箇所隔離;14時間11分後に運転制御室でのバルブ手動操作で隔離実施

  環境への放射能流出:「原子炉格納容器」の隔離を継続し、検知できる量の放出はなかった。

 2.問題点
  
(1) 事故の名称

    ●日本原電・通産省・原子力安全委員会:「一次冷却材漏洩」

     ●「一次冷却材喪失事故」とすべきではないか
     理由:@「安全評価指針」に基づいて、日本原電が作成した「設置許可申請書添付資料」中に明記。 
          (資料1
          A日本原電が事故対応に使用した「非常時運転手順書」の名称は、「一次冷却材喪失
                  B一次冷却材小漏えい」
          (引用者注:「小漏えい」とは、ECCS作動せずにすむ場合)

(2) 事故の特徴
    @「圧力バウンダリ」外での一次冷却材喪失事故  (図3
    A漏洩箇所確認まで長時間の漏洩継続唯一の確認手段(格納容器内監視カメラ)無効のため
    B「破断前漏洩(Leak Before Break, LBB)」の過信に警鐘

(3) “優等生原発”での予想外の事故
    ●三菱の自信作「改良型120万KW級PWR」であり、運転歴12年2ヶ月で、総発電量1000億KWHの国内最短達成記録を達成(1998.8)。
    ●「定期検査期間短縮」(44日)を初めて実施して8ヶ月後に、これまで検査対象外だった箇所での大小無数のヒビ割れ発生。

(4) 配管亀裂発生の原因未確定(正脇報告)

(5) 規制当局を含む当事者の事故軽視

   ●日本原電:事故発生約4時間後に、見学予定グループを「冷却水漏れがあったが安全」と称して構内に導き、1号機制御室などを案内。

   ●通産省:@事故発生約6時間後に早々と、「事故は『国際的評価レベル1』の軽微な事象」と発表(最終的にも確定)。
        A日本原電ともども、「2週間程度で運転再開可能」との見解表明。
        B原子力安全委員会への最初の報告には、事故関連データを提出せず、同委員会が「激怒」した。 

   ●原子力安全委員会:「激怒」も忘れ、一片の「見解」(資料2)で“幕引き”

(6) 批判側の安全追及の甘さ
    @敦賀2号機「再生熱交換器」に、原子炉からの抽出水を送る配管のエルボ部で、ヒビ割れ発生し、一次冷却水漏出という事故が96.12.24に起こっていたが、「僅かな蒸気漏洩で、エルボ製作時の不純物(亜鉛)混入のため生じた『低融点金属割れ』が原因」との発表があったが、全く問題にしなかった。
    A1980年から1989年にかけて、相次いで5機のBWR(浜岡2,島根1,福島第二・1、福島第二・2(2回)、福島第一・1)でも、「再生熱交換器」    周辺で、漏洩が発止していたが、全く問題にされてこなかった。

(7) 再発防止対策への疑問 

   @敦賀2号機:
     ●「再生熱交換器」を「内筒型」から後続PWRで再採用の「内筒なし型」に変更すること。
        「再生熱交換器」“改良”の変遷:
       タテ型(WH社製)→ヨコ型内筒型(熱交換用細管を取り付ける管板と外筒の溶接部分への応力緩和のため溶接部の曲率を大きくしたことで管板と外筒の径が大きくなり、減少した熱交換効率回復のため)
       →内筒改良型(敦賀2号機;被ばく低減のため抽出流量大にし、熱交換効率維持のため胴長型に)→内筒なし型に戻る
     ●「再生熱交換器」を含む「第3種機器」について、設計基準はそのままに、「供用中検査法」だけ「第1種機器」なみに変更すること。(参照)
     ●「超音波探傷法」万能の検査法。
     ●改善策にあげている「高サイクル熱疲労を考慮した設計」も、設計基準はこれから検討が必要、と。
     ●「非常時運転手順書」の改訂、及び、事故対応策の改善などの内容公表と妥当性確認を、運転再開(来年1月を予定)までにやるのかどうか。

   A同型「再生熱交換器」を装備した5原発(泊1,2号、高浜3,4号、川内2号):
     ●交換せず、至近定期検査時に、敦賀2号機でヒビ割れが発生した部分について、「超音波探傷試験」を実施して、そのまま使用を続けること。
     ●敦賀2号機で予定している「供用中検査法改善」や「手順書改訂」などを実施する時期不明のまま。

  (8) 経済性向上を目的に、敦賀3,4号機で採用予定の超大型APWR(153万KW)への危険信号
                                 ー終わりー


           「第1種機器」と「第3種機器」
 1.重要度分類
  軽水炉原発の基本設計では、原発を構成する諸施設を、安全上の重要度によって分類し、設計、施工、品質管理などの際に、重要度の高いものを念入りにチェックする方式を採用している。 その分類法は、以下のように法的に規制されている:

 @「発電用軽水型原子炉施設の安全機能の重要度分類に関する審査指針」
               (原子力安全委員会決定, H.2.8)
 A「発電用原子炉設備に関する構造などの技術基準」
               (通商産業省告示第502号、S.55.10)

  今回の事故でひび割れして1次冷却水を漏洩させた「再生熱交換器」は、@の指針では、重要度は「クラス2」に指定され、「高度の信頼性を確保し、かつ、維持すること」が要求されていた。しかし、この「再生熱交換器」とバルブで繋がっている原子炉側の配管は、重要度が「クラス1」に指定されている「原子炉冷却材圧力バウンダリ」に含まれており、「合理的に達成しうる最高度の信頼性を確保し、かつ、維持すること」が要求されている。
 一方、Aの「告示」では、「原子炉冷却材圧力バウンダリ」を構成する「容器」、「配管」、「ポンプ」、「弁」などは、「第1種機器」に、また、「再生熱交換器」など、「原子炉冷却材圧力バウンダリ」とバルブで繋がっていて、原子炉の運転や事故拡大に重要な役割を期待されている「容器」、「配管」、「ポンプ」、「弁」などは、「第3種機器」として分類されている。(資料注1) 

2.供用期間中検査 
 安全機能重要度分類に対応して、「第1種機器」と「第3種機器」とでは、原発寿命注に実施しなければならない「供用期間中検査」の方法、実施時期にも差が設けられており、具体的には、民間団体の「日本電気協会」が作成した「軽水型原子力発電所用機器の供用期間中検査」(JEAC 4205-1996)によって、規定されている。(資料注2