第88回 原子力安全問題ゼミ(2002年7月5日)

 
 
中性子と原子力
   
 海老澤 徹




 
はじめに

現状:年金生活者になったこと
      所得税を引かれて月収23万円
      保険料:  38,000
      住民税:約45,000
仕事:原研の嘱託研究員として2週/月:雑用、義務がなくなったこと
      原子力問題にも少し時間ができた、東京に行けるようになった

連絡先:堺市新檜尾台1-20-10
        Tel:072-297-6529
        ebisawa@sakai.zaq.ne.jp
 

原子炉実験所の研究用原子炉から得られる中性子を用いて量子力学の基礎研究に従事しています。また、同時に、原子力問題、特に、工学的安全性に強い関心を持ってきました。
この原子炉が臨界になったのは1964年の夏でしたが、私はその年に入所しました。私は、電荷を持たない粒子、中性子というものに興味をもっていました。中性子発生装置としての原子炉が臨界を迎え、中性子利用を推進する部門に所属しましたので、中性子を用いてどのような物理ができるかということ、同時に、原子力利用が本格化する時期でもあったので、それがどのようなものかということに関心があった。

私が原子炉を利用した仕事の最初は、久米さんの核化学的研究のお世話をすることでした。山陰の海で遊泳中に亡くなった岡村さんが阪大から一緒にやってきて実験するわけですが、その研究のために装置を整備し、実験のお手伝いをするということを最初の5年ぐらいやっていました。そのうち、原子炉の方へは久米さんが来なくなってしまいました。部門の責任者は大変がっかりしていました。私は伊方の裁判をお手伝いをするということで、また、一緒になりましたので、別に失望したという記憶はありません。当然のことと思っていました。

原子力への関わりという点では、小林さん、小出さん、今中さんとは少し違っていた。すなわち、彼らは、本来、原子力開発に従事するべく、原子力工学を専攻した。わたしは、専門が原子力に近いあるいは原子力情報に接しやすい立場にあるということで、原子力問題に関わった。その意味では、川野さんに近いと思います。

退職に当たって話をするというのは趣味ではないのですが、多忙にもかかわらず、万端の準備と多数の方にご出席いただくということには大変感謝しておりますう。私はふさわしいとは思いませんが、快く引き受けることにした次第です。表題を決めかねていると「原子力の工学的安全性の30年」ということで如何ですかと聞かれました。確かに、これまで何か話す機会には、何時も工学的安全性に関わることでした。しかし、その題では、些か面はゆい。そんなことを言える程、きちんとやってこなかったし、正直困りました。そこで、はじめに述べたように、ここでやって来たきたこと、その中で原子力について考えてきたこと、感じてきたことを、一般的、抽象的になりますが、話してみようと思いました。具体性がない、まとまりがない、判りづらい、何の役に立つのということになると思いますが、ご容赦ください。
 

   <準備した話の内容>
   中性子と原子力:物理的観点からの原子力

1. エネルギー源としての原子力、その比較評価
   軽水炉
   高速炉とプルトニウム燃料
   核融合炉:ITER計画

2. 原子力利用で重要な放射能半減期の物理
     時間とエネルギーの不確定性
   放射能の生物影響の物理
     エネルギーの量子化

3. 中性子を用いた不確定性や量子化の巨視的観測

4. 工学的安全問題について
   事故調査が最良の工学的安全性評価方法
     浜岡の水素爆発事故の例
   最近の原子炉の変更の動向
   アイスコンデンサー型格納容器の問題と水素爆発
   堺における酸化チタン産廃のその後



 
 

    中性子と原子力
 

1.  エネルギー源としての原子力
    実績のある軽水炉との物理的観点からの比較
    核分裂反応
      軽水炉:U-235
      高速増殖炉:プルトニウム
    核融合反応:ITER

2.  軽水炉は、優れたエネルギー発生装置である:放射能の発生を除けば

    核分裂反応:

    n+U-235 = F.P+2.5n+200 Mev

    低速中性子による核分裂反応はエネルギー発生反応として優れた特性
      電荷を持たない低エネルギー中性子により、容易に起こる原子核反応
      エネルギー発生反応として多くの優位性をもっている
        遅発中性子による反応度の維持、制御が容易
        安定、安全にエネルギーの発生が継続
      水という安定で、安全で、使い慣れた、大量に存在する物質を使用する
    放射能がなければ水中での核分裂は理想的なエネルギー発生反応

3.  放射能の存在が軽水炉の優位性を脅かし、覆す
      アメリカ、ヨーロッパでは、段階的縮小、廃止の方向性が明確
      日本でも原子力の成立基盤は斜陽化した、人材と産業の空洞化が進行
      原発の規模の増大と問題は深刻化しているにもかかわらず
    その原因:核分裂反応は放射能生成反応:大量の放射能の生成
      放射能問題:放射能の長い半減期と放射線の桁違いの危険性
      発電炉の最大の問題:放射能の危険性が顕在化しないようにすること
        安全な利用体制:規制、工学体系の確立、エネルギー効率とコストに跳ね返る
      どんどん貯まる放射能の先送り、残される放射能問題、環境破壊の一環
      子孫に負の遺産を残す初めての世代、子孫に対する犯罪:槌田
    核兵器の問題:兵器としての優れた特性
      人類滅亡の観点からは、環境問題と共に、本当は最も深刻な問題
    自然の法則は「人間に都合良く」できていない

4.  高速増殖炉:プルトニウムが燃料:U-238からプルトニウムの増殖
                冷却材、減速材にナトリウムを利用する。
    プルトニウムの利用:再処理を必要とする。プルトニウムの大量流通:
                        核兵器の拡散と管理社会。
    ナトリウムの利用:取り扱いの厄介さ。稼働率が上げられない
    Super Phenix、「もんじゅ」の経験
      予測を超えた技術的困難:撤退路線に突入

    相変わらず、再処理、高速炉推進が日本の政策
      エネルギー問題解決のためにはプルトニウムが必要
    日本におけるプルトニウム必要論にはタブーがある
      高速炉と核兵器の関係、プルトニウムの利用コスト
    高速炉は良質な核兵器用プルトニウムの生産に適している
      Super Phenixのパンフ:
      Fast breeders or "plutonium washing machines"
      フランスの高速炉推進のもう一つの目的を示していた
    高速炉からの撤退:冷戦の終結、核兵器用プルトニウムが不要、厄介物

5.  高速炉政策はプルサーマル問題として現れている
      プルトニウムの需給予測でも、プルサーマルが主役
      再処理の結果もたらされる膨大なプルトニウムの使用、消滅政策
        大変な厄介物、プルトニウムは消滅させなければならない
      米ソの核兵器解体プルトニウム(34トン)の消滅問題を見れば明確
        プルサーマルとして処分:使用済み燃料にする
        ロシアのために国際協力で20億ドルの資金を集める
    再処理とは、膨大なコストをかけて、厄介なプルトニウムを取得
    どうしても判らない謎:
        なぜ再処理をする
        なぜ高速炉
        なぜプルサーマル

6.  プルサーマル推進の理由
    その意義:原子力学会誌の特集、原子力委員長の見解
      資源のリサイクルによる有効利用と環境負荷低減
        プルトニウム燃料としてリサイクルし、燃やすことによる廃棄量の減少
        リサイクルに適したシステムを選択することが前提、その検討
        プルトニウムを取り出すことが環境に優しい、言うべき言葉がない
          以前、今中さんが、原子力キャッチフレーズの変遷と歴史
          夢の原子力から始まり、今、リサイクルと環境がプルサーマルの標語
      直接処分に対する批判
        1%しか利用しない、使える資源を捨てる
        プルトニウムを残すことによる問題として
          日本は使用目的のないプルトニウムを持たないことを公約
          潜在的な核拡散の危険性を残す
            解体プルトニウムの処分方法を見ても理解しがたい
      プルサーマルの位置づけの変遷として
        当初の資源の有効利用に加えて、
        環境負荷低減と核不拡散が加わったとしている
          プルサーマルでの処分が国際的に求められていると言っているが、
          これは高速炉は現実的でないことの裏返し

    いずれにしろ再処理が前提で、
      現実に行われ、実績のある使用済み燃料の形態で保管という選択種がない
    プルサーマルの技術的方法は議論される。コスト、大量流通の問題点がない
      プルサーマルの燃料集合体は軽水炉の条件に合わせるために極めて奇妙なもの

7.  「なぜ再処理か」は謎として残る
    再処理派の国:フランス、イギリス、日本
    保管(直接処分)派の国:アメリカ、カナダ、スエーデン、ロシア

    再処理政策の選択は保管の場所が得られる国と得られない国によって分かれている
      軽水炉推進の前提条件、必要条件は、使用済み燃料を保管できる場所の確保
      保管というのは一時保管や中間保管でなく、永久保管を意味する

7-1 熊取の原子炉は、今の燃料がなくなる2005年?に停止する可能性が大きい
      最大の要因は、使用済み燃料の永久保管の問題
      私も研究炉の2つの燃料問題を個人的に真剣に考察した:当事者能力はない
        溜まっている使用済み燃料の搬出問題:厄介物の搬出問題、解決する
        使用済みシリサイド燃料の処分の問題:厄介物の永久保管、解決法がない
          厄介物の永久保管は、誰もがいやがる。解決の方法がない
    軽水炉の立地、運転のためには、使用済み燃料は、サイトでの一時保管が大前提
      運転に伴ってどんどん貯まる使用済み燃料、そのもって行く先が大問題
        もってゆく場所の確保が最大の問題、今は再処理と処分という論理しかない
    矛盾の先送り、問題の先送りの典型例

8.  核融合炉:もう一つの有名な発熱原子核反応
      「地上に太陽を」核融合炉開発のキャッチフレーズ:事実ではない
    核融合炉の反応:太陽ではなく、水爆の反応、水爆のエネルギー利用
      軽水炉:原爆、プルトニウム生産用原子炉、原潜用動力炉、軽水炉
    核融合原子核反応の発見により天体現象は初めて物理的対象になった
    太陽の反応:4H=He+エネルギー:超高温超高圧下でのゆっくりした反応
      1500万度、2000億気圧、1/4の半径の領域で核融合
      発生したエネルギーは約15万年かかって表面に達する
        6000度の輻射として放出:約500秒で地球に達する
      太陽の反応は地上ではエネルギー源にはならない
        地上では太陽の超高圧の実現は不可能
        極めて弱い出力密度:10-2 W/l
    「地上に太陽を」でなく、「水爆の平和利用」とすべき
    「地上にある太陽を」利用する方向に向けるべき

9.  核融合炉に利用される反応:水爆の反応
    水爆とは:百科事典を見ると:原爆の周りに重水素化リチウムでくるむ
                D+T=He+N+17 Mev
                D+D=He-3+N+3 Mev
      この反応は原爆を用いれば容易に起こる
    電荷があるため制御された核融合反応は大変困難
      軽水炉は電荷のない低速中性子により、原爆より制御は簡単
      加速器を用いれば、最も容易に起こる核反応
      荷電粒子の核反応は電気的反発力のため極めて起こりにくい:加速する必要
      加速しても物体の中でのエネルギー損失が大きく、非効率
      発熱反応であるが、エネルギー発生反応にならない

10. 簡単に核融合を起こす方法:水爆
      水爆:原爆で超高温高密度を実現
      究極の殺人兵器、核分裂の200倍から1000倍の効率で中性子が放出
    核融合炉にはエネルギーの損失を防ぐ方法が必要
      超高温高密度のプラズマの実現
      レーザー爆縮、イオンビーム爆縮
        原爆によらない水爆の開発につながる
    2つの困難:
      安定な核融合反応の実現
        電荷をもたない中性子による核分裂との大きな違い
      エネルギー発生を高速中性子が担う:炉工学の技術的困難

11. ITER計画:今後の核融合開発の鍵
      欧州、日本、ロシア、カナダ、(アメリカ)
    ITER計画には、技術目標に対する具体的な技術評価がない
      ITER計画懇談会による位置づけは抽象的な目的、評価
      具体的な評価は避けている
      これはITER計画に現実性がない反映

12. ITER計画懇談会による位置づけを見てみると政策決定の根拠
      核融合エネルギーの特徴
        燃料となる重水素が海中に無尽蔵
        炭酸ガスの発生がなく、地球温暖化等の原因にならない
        自然界が普遍的エネルギーとして選択、宇宙のエネルギー発生
      開発の意義:国際的役割、国家的アイデンティティの強調
        国際的役割:経済的貢献だけでなく、知識、知見の創造、、
                    技術の提供と言った新しい姿に脱皮
        計画の公共性:
          巨大技術の開発は現世代の人々に直接的な利益をもたらすものでない
          私的利益を離れて未来の人類を想う公共的な理解が必要
          国際的役割を果たす等国家的倫理観にもとづく行為
          一人一人が有意義な公共的計画であると理解し、、、
          公共的意識を発現する場を国家が提供する倫理的に有効な例
        計画、金額の妥当性:
          この投資の効果が現れるのは遠い未来のこと、現時点では判断できない
          現在の経済的枠組みの存続すら言及できない時期に効果が現れることを期待
          人類の将来の自由度を保証する1兆円の保険料、実用化は問わない

13. ITER最終設計の概要
    技術目標
      核融合エネルギー増倍率  Q:10以上、無限大も排除しない
      非電磁誘導の電流駆動で、定常運転を実証(Q:5以上を目指す)
      ITERの建設運転により、核融合炉工学技術の総合的な実証
      原型炉用のブランケットモジュール、高熱負荷機器等の試験
    ITERの設計概要:大型トカマクのscale-up
      核融合出力:500 MW
      主半径:6.2 m
      小半径:2.0 m
      トロイダル磁場:5.3 T
      プラズマ電流:15 MA
      放電時間:300秒以上
      プラズマ容積:840 m3
      出力密度:0.6 KW/l
    構造の概要:図参照

13-1 エネルギー発生反応:複雑すぎる、不安定、効率的でない、出力密度が小さい
       これらの特質は、改良はされるが、本質的には解決され得ない
     炉工学:高速中性子が遮蔽されずにエネルギーをもちだす、材料がもたない
             装置全体が強いリチウム汚染を受ける
             融合炉構造材は強く放射化される
     安定な運転ができない:稼働率が悪く、エネルギー源にならない
     トリチウムの閉じ込めが困難
     トリチウムの実効的増殖ができない可能性

     軽水炉と比べるとエネルギー源になり得る条件を持たない

     地上の太陽エネルギーの利用を考えるべき
       昔からやってきことで、多種多様:公共性、倫理性に合致する
       一部は安全ゼミでも取り上げられている

14. 放射能問題の量子力学:20世紀物理学の産物
    放射能半減期の量子力学
    放射線による生物影響の量子力学
    量子力学の特徴:従来の古典物理と比較して
      物理状態と観測量との関係が異なる
    古典物理:粒子の位置、速度等は予測値と一致して一意的に同時に決まる
              P(x)、E(t)
    量子力学、微少なスケールで現れる
      物理状態は状態の存在確率として評価される
      状態の観測のためには多数回の観測が必要、一回の観測では判らない
        存在が分布する、位相項が含まれる、干渉が起こる
      場所と速度、時間とエネルギーは同時には決まらない
        不確定性が生じる:ΔT X ΔE = h :10-15 eV・sec:h=0が古典物理
      物理量が量子化される:エネルギーの量子化
    特殊相対性理論:エネルギーと質量の同等性、高エネルギー現象
    量子力学も特殊相対論も人間の生活空間では、無視できる

15. 放射能半減期の量子力学
    放射能の半減期は時間とエネルギーの不確定性の現れである:放射能崩壊図
    不安定な原子核:あるエネルギー幅を持って高いエネルギー状態にある
                    エネルギー幅に反比例して放射能の崩壊時間が決まる
    放射能には寿命(半減期)があるが、原子核は年を取らない
      生き残っている原子核の平均寿命は何時も半減期たけで決まる
      長生きした人の寿命は短い
    核分裂で生じる放射能の半減期が短ければ:
      核分裂はエネルギー源としてすぐれもの、核兵器問題は残るが

16. 放射線の桁違いに大きな生物影響
      もし、放射線の生物影響が他のものと同程度であれば、放射能は無視できる
      放射線のエネルギーは質が違う、どう違うのか量子力学的に考えよう
    電磁波を考える:電波、可視光線、紫外線、X線、ガンマ線
    前の2つの電磁波による生物影響は小さい
    紫外線は皮膚の細胞を破壊する:太陽光線は可視光と紫外線
      地球の歴史では、陸上に生物が進出したのは、4.5億年
      その時、オゾン層ができて、紫外線が遮蔽され、生物が住めるようになった
    X線、ガンマ線は非常に危険:電離放射線
    放射線の被曝線量は、Gy、Svで与えられる
      1 Gy=1 j/Kg:2 X 10-4度の温度上昇
    致死線量:約6 Sv;ほんの僅かのエネルギーで死
    ガンマ線: Sv=Gy:1/1000度の温度上昇のエネルギーで死
    高速中性子やα線:Sv=10Gy:1/10000度の温度上昇で死

17. 電磁波による影響の違いはエネルギーの量子化によって説明される
    エネルギーの量子化:物理量の量子化の1つ
    エネルギーの量は、連続的にではなく、ある最小単位の整数倍からなる
      物体を分割してゆくと、分子、原子、核子、素粒子:最小単位がある
      生物でも同様:メンデルの遺伝の法則、DNA:4つの分子の配列、
                    タンパク質は20種のアミノ酸の組み合わせ
    通常の波動を考える:水面上の波、地震振動、音波
      これらの波のエネルギーはどこまでも小さくできる
      エネルギーの大きさは振動、振幅の大きさ:どこまでも微少な振動
    電磁波:波長、振動数で特徴づけられる波:エネルギーの量子化
      どこまでも小さく分割はできない:エネルギーの最小単位がある
      量子化された電磁波を光子と呼ぶ:nh\nu
    エネルギーの量が大きい:多数の光子がある
    1つ1つの光子が物質、原子、分子と相互作用をする

18. 原子や分子は、特有の結合エネルギーで1つの単位を構成
    光子が分子に衝突するとき、
      そのエネルギーが結合力より大きいとき:分子は破壊される
      それが結合力より小さいとき          :分子は破壊されない
    生体細胞中の分子の結合力の大きさは可視光線と紫外線の間にある
      分子をしっかり結合している電子をたたき出す:電離放射線(非電離放射線)
      光電効果として知られる物理現象:アインシュタインによって発見
    光や電波が次々と衝突しても細胞は壊れない:結合エネルギーより小さい
    X線やガンマ線は結合力より遙かに大きなエネルギーをもつ:
      物質通過中に高速電子を発生させる:高速電子が次々と細胞を破壊する
      効率的に細胞を破壊する

      唯一の救い:生体は非常に大きな修復の機構をもっている:破壊=影響ではない
      細胞の破壊と影響の関係は複雑ではっきりしない:定性的に線質係数
      被曝線量と影響の関係は、疫学調査によって推定
    電磁波による障害は、電磁波による電離作用以外の作用

19. 原子炉から得られる低速中性子の性質
    核分裂で発生する中性子の性質:高速中性子

      n+U-235 = F.P+2.5n+200 Mev

    水減速材の水素原子核との玉突き衝突によるエネルギーの喪失
    常温の水との熱平衡:室温の中性子へ
      10^6 eVから10-2 eV:20000 Km/secから2000 m/sec:300億度Kから300度K
    原子炉から出てくる中性子の性質:2000 m/sec
      空気中を飛んでいるときは、野球のボールと同じ物理的振る舞い
      金属があると、原子の規則的な配列の中で波動的性質を示す。
        中性子は波長=2dsinθを満たす角度に選択的に散乱される。
        原子間隔、原子構造がわかる。波長は1Aで、原子間距離と同じ大きさ。
      波長が原子間隔より大きくなると、原子の位置は見なくなる。
        物体は屈折率で置き換えられ、光の屈折現象と同じ光学的性質を示す。
      反射率50 %のハーフミラーによる中性子の分割と干渉現象の観測

20. 中性子による量子力学現象の観測
      半減期と寿命の不確定性と電磁波エネルギーの量子化の観測
    中性子は磁石の性質を持っている:電子、陽子と同様に、磁石の元
    磁石の性質はスピンという物理量と対応している
      垂直な磁場の中で、中性子は+スピンか−スピンいずれかの状態をとる
        スピン状態の量子化:中間状態は観測されない
        エネルギー的にも+-muBという二つの物理状態だけが存在

      磁気ミラーにより+スピン状態を反射により選択
      コイルに横方向に振動電流を流し、振動磁場を生成
        同じ振動数の光子の生成
      中性子はコイルを通過する間に光子を放出して−スピン状態に遷移
      磁気ミラーで−スピン状態を選択
      −スピン中性子を検出

      その時の遷移確率の測定データとその結果の意味
        振動数は遷移エネルギーレベルに対応する
        振動数の分布の幅は、遷移する時間(寿命)幅と不確定性関係を満たす

21. 中性子を用いた電磁波のエネルギーと位相の検出
      前のシステムで、磁気ミラーの前にもう一つコイルを設置する
      二つのコイルでスピン状態を半分だけ反転させる
        このコイルでは、振動磁場の位相が分波中性子間の位相差になる
        分波、重ね合わせると、干渉の結果、中性子強度は位相によって変化する
        中性子強度を測定すると電磁波の位相が測定されたことになる

        測定データ
          中性子を用いた 低周波電磁波の観測

21-1 微弱な相互作用を可能にする条件
       電荷のない中性子は空気中ではスピンと磁場だけの相互作用しかない
       電荷のない低速中性子は100 %の検出効率で測定可能
       電荷のない中性子は低速でも透過性がよい
       中性子にはバックグラウンドがない

     新しい量子力学現象の観測
     長波長中性子ビームの制御デバイスの開発
     中性子スピン干渉による微弱な相互作用の検出
       10-21 eV:中性子の寿命900秒に制約される
       中性子EDM、中性子電荷(10-26 electron unit)、重力のスピン依存性
       物理理論の限界を探る

22. 軽水炉の工学的安全性問題
    原発の安全問題の最良の指標:現実に起こった原発事故
    軽水炉の安全確保のための法的規制体系、システムの技術工学体系は
      現代技術の知見を反映した完成度の高い精巧なもの
      炉心は極めて厳しい工学的条件にさらされている
        巨大な熱の発生、大きな温度差、複雑な炉心構造、莫大な放射能の生成
        にもかかわらず、低い燃料破損率は驚異
        予測される様々な事象に対する安全対策
    にもかかわらず、原発で発生する事故は安全確保の困難さを示している。
    原子炉の事故は、安全問題の実物実験
      安全性の実態を、誰にも判る形で、具体的に示す
      安全確保が可能か否か検証する最良の実証実験
    これまでの事故は、安全確保の困難さを示す
      起こりやすい事象には対策が立てられているが
      複雑なシステムの中で「希れにしか起こらない予測しない事象」が安全を脅かす

23. 浜岡1号機の配管破断事故で示された原発の安全問題
    予期しない水素爆発による配管の瞬時破断
    配管破断に伴って生じた多くの機器の故障
    隔離弁の作動によって事故の拡大は防止されたが、大事故への重大なニアミス
    隔離弁の不作動は、HPCI不作動、格納容器の役に立たない大破断LOCAの可能性
      水素爆発の場所と規模によって起こりえる

    直接原因:配管の付け替え工事
      法的規制を受けずに社内の判断で行われた
    このような事故でも原子炉を止めなくても良い運転手順書
    水素爆発は起こるまで予測されなかった:何の対策もなかった
    ドイツでも同じような事故が起こったが、気付かれなかった
      爆発の場所がもう少し上流なら、逆止め弁破損、圧力容器破損につながる
    水素爆発の場所と規模によって重大な事故が起こりえることを示した

24. 原発の最近の変更申請
    高燃焼度燃料の使用、プルサーマル
    老朽化に伴う機器の交換:
      PWR:圧力容器の上蓋交換、蒸気発生器の交換
      BWR:炉心構造物の交換、制御棒案内管取り付け部の応力腐食割れ
    原発の寿命延長による高経年化問題では、老朽化の問題は広範に及ぶ
      新規の電源立地には莫大な資金と時間が必要
      寿命延長は低コストで簡単
      機器、施設の健全性調査の困難、機器更新の困難、交換部品がない
      老朽化は安全性を脅かす、予防的に廃止することが義務
      予測は困難だが、大事故が起こってからでは遅い

25. アイスコンデンサ型格納容器における水素爆発:大飯1、2号機
    スリーマイル事故以後、原発のsevere accident対策が問題になった
    その一つ:格納容器水素爆発対策:想定外の大量発生が起こった
    アイスコンデンサ型格納容器は水素爆発に弱い
      格納容器の容積を小さくするために、氷でLOCA時に放出された蒸気を凝縮する
      事故時にジルコニウムー水反応で生じた大量の水素は上部に貯まる
      耐圧も低い:0.84気圧

26. 酸化チタン製造時の産廃問題:ウラン、トリウム汚染
    堺市菱木処分場には5000トンから10000トンの産廃が地下10m前後に埋められている
    下流の放流水中には濃度規制値より十分小さいが、U-238及びTh-232が検出されている。このことは汚染が下流域に拡散していることを示している。その量を評価することが重要である。

表1 菱木処分場における放流水中のウラン-238及びトリウム-232濃度の測定結果
     単位(mBq/リットル)、堺市環境局

         90    91    92    93    94    96    97    99    00    01

U-238   11    5.9   13    5.7   5.8   4.1   5.7   2.7   4.2   4.7
Th-232    4.5  2.2    2.8  1.5   2.9   1.5   1.4   0.85  1.2   0.92