講演要旨

 

「陽電子」は電子と同じ質量を持ちますが、電子とは反対の「正」の電荷を持つ素粒子(電子の「反粒子」)です。陽電子は、放射性同位元素の崩壊(β+崩壊)や、原子炉や電子線加速器を用いて、比較的、多量に得ることのできる反粒子です。 陽電子を材料に入れると、材料中の電子と対消滅し、光(ガンマ線)になりますが、このガンマ線を詳しく調べると、最新の電子顕微鏡でも見えないような、材料中のナノ(十億分の一)メートル・スケールの小さな乱れを検出することができます。例えば、原子炉の安全に最も大切な圧力容器と呼ばれる「お釜」は鉄鋼材料でできていますが、原子炉を長年使っていると中性子を多量に浴びてもろくなっていきます。これは、中性子が鉄鋼材料中の原子を蹴飛ばしてできる「穴」が集まったり、材料に含まれる不純物が集まったりすることが原因であることが、陽電子を使うことでわかってきました。 また、陽電子ビームを物質の表面すれすれに当てると、陽電子は表面第一層で全て反射されるという面白い性質があります。この性質を利用して、他の方法では不可能な表面第一層の構造を調べることもできます。例えば、酸化チタンは光触媒材料として有名ですが、その表面の構造は30年にわたって様々なモデルが提唱されていましたが未解決でした。最近、陽電子を用いることで詳細な構造を決定しました。すると、これまで提唱されていたモデルが間違っていたことがわかりました。 講演では、これらの陽電子を用いた最新の材料研究の一端をわかりやすく紹介します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

陽電子と電子が対消滅するときに放出されるガンマ線を詳しく調べることによって材料のナノスケールの乱れがわかります。

 

 

 

 

 

 

陽電子を表面すれすれに当てて反射される陽電子を調べると表面第一層の構造が決定できます。

 

 

 

講演者略歴

 

永井 康介(ながい やすよし)
1998年3月 東京大学大学院理学系研究科博士課程(物理学専攻)修了後、東北大学金属材料研究所 助手、2001年7月 助教授、2007年4月 准教授(名称変更)を経て、2009年4月 教授(現職)。その間、2006年4月より2年間、科学技術振興機構 研究開発戦略センター フェローを兼任。 2015年4月より東北大学金属材料研究所 附属量子エネルギー材料科学国際研究センター長、2017年10月より高エネルギー加速器研究機構 物質構造科学研究所 教授(クロスアポイントメント、低速陽電子グループリーダー)を兼任。

 

研究テーマ

従来の方法では検出できないような材料中のナノメートル・スケールの乱れや、表面の原子構造を、電子の反粒子である「陽電子」などの特徴的な道具を使って解明。