講演要旨

 

「トリウム」という名前を聞いたことはあるでしょうか?トリウムは、さまざまな鉱物に含まれている元素で、ウランと並んで自然界に存在する天然エネルギー資源です。人類は、原子力エネルギー源としてのトリウム利用には早くから注目しており、歴史的にも原子力エネルギー利用の黎明期から研究が行われています。トリウムを使った原子力システムは、資源の豊富さ、システムの安全性などを含めて、様々な魅力的な特徴を持っているのですが、トリウムはそのままではエネルギー資源として利用できないという難しさがあります。このため、世界的に見てもトリウムの利用は研究開発段階に留まっていたのですが、近年、世界各国でトリウムを未来のエネルギー源として利用するための研究活動が再び活発になっています。京都大学複合原子力科学研究所では、1980年代からトリウムに関する様々な研究を重ねていて、特に、トリウムを使った原子炉を模擬した実験研究は世界的に見ても数少ない取り組みです。この講演では、トリウムとはなにか、エネルギー資源としてどのような魅力があるのか、のご紹介から始めて、研究所で取り組んでいる研究テーマを含めて、トリウム利用に関するさまざまな研究の世界をご紹介いたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

京都大学臨界集合体実験装置(KUCA)。様々な原子炉を組み立て実験ができます。トリウムを使った原子炉の実験ができる、世界でも貴重な実験装置。

 

 

 

 

 

 

KUCAでの実験結果を詳しく調べることにより、トリウムの中性子断面積(トリウムがどのように中性子と反応するか、を示すもの)の、どの部分で改善が必要なのかということがわかります。

 

 

 

講演者略歴

 

宇根崎 博信(うねさき ひろのぶ)
1987年大阪大学大学院工学研究科原子力工学専攻前期課程修了、1989年同大学院博士後期課程を退学し京都大学原子炉実験所助手に任用、2002年同助教授を経て2009年より京都大学原子炉実験所(現:複合原子力科学研究所)教授・京都大学大学院エネルギー科学研究科教授。京都大学博士(エネルギー科学)。大学院時代に米・アルゴンヌ国立研究所、京都大学助手時代に仏・カダラッシュ原子力研究所へ留学。 専門分野は原子炉物理学、原子力工学、エネルギー政策。 趣味はジャズ演奏、釣り、昆虫採集、切手蒐集など。