講演要旨 

未来のがん治療技術:核医薬
-人類に脅威にも福音にもなるアクチノイド-

  原子力発電で排出される放射性廃棄物の長期毒性が問題になっています。これは放射性廃棄物の中でもアクチノイド元素が発生するアルファ粒子の確実な細胞致死性によるものです。最近、このアクチノイド元素を用いて、伝播性がん治療薬が作られ、注目されています。このアクチノイド元素の学術体系構築が急務となっています。

  原子炉からの放射性廃棄物から集められたウラン(U-233)の孫の核種であるアルファ放射体のアクチニウム(Ac-225)はドラッグデリバリーシステム(DDS)に装荷して投与すると、伝播性がんに最高の治療効果をもたらすとされています。放射性廃棄物中の超長寿命(100万年程度)のアルファ放射体(マイナーアクチノイド)を破壊し人類が管理可能に短縮(200年程度)する研究も求められています。

  京大原子炉は従来より日本国内での貴重なRI製造拠点です。特に、加速器では製造しにくい、治療用に適当な半減期をもつRIが製造できます。この京大原子炉では、世界的に研究が進むベータ粒子を放出核種の研究も進められています。さらに、京大原子炉の廃止後に建設される計画が進む新試験研究炉(福井県)との連携で、医療用RIの製造が本格化することが期待されています。

  本講演では、未来のがん治療技術である核医薬として期待されているアクチノイドやそれ以外のベータ放出核種の研究についてご紹介できればと思います。

 図 (左)がん治療用核医薬の概念図。アクチノイドの一つ、アクチニウム-225は、6個の粒子を放出して、半減期10日で安定核種になります。がん細胞を識別する抗原と「鍵と鍵穴」の関係にある抗体にアクチニウム-225を乗せると、がん腫瘍に吸着します。これにより、全身に転移した癌が治療されたことが報告されました。

講演者 略歴

山村 朝雄(やまむら ともお)

学歴
1990年3月 慶應義塾大学 理工学部 応用化学科 卒業
1992年3月 東京工業大学 理工学研究科 原子核工学専攻 修士課程 修了
1995年3月 東京工業大学 理工学研究科 原子核工学専攻 博士課程 修了
1995年3月 博士(工学)(東京工業大学)
職歴
1995年11月 京都大学 原子炉実験所 講師(中核的研究機関研究員)
1996年 9月 東北大学 金属材料研究所 助手・助教 (2004年より職制の変更による)
2012年10月 東北大学 金属材料研究所 准教授
2016年12月 東北大学 原子炉廃止措置基盤研究センター 准教授(兼務)
2018年 4月 京都大学 複合原子力科学研究所 教授
現在に至る

研究のテーマ
  エネルギーと化学への関心から、ウランなど原子燃料の要素であるアクチノイド系列元素の物性化学に魅せられてきました。この分野は、原子力科学における放射性廃棄物の減容や、東京電力(株)福島第一原子力発電所事故に伴うデブリの処理に貢献が求められています。また、この系列元素の一つであるα放射能のあるアクチニウム225(半減期10日)を適切にがん細胞に導入すると伝播性ガンの治療に役立つことや、ウランやネプツニウムを活用した二次電池など、狭義の原子力にとどまらない研究分野となっています。

  アクチノイド系列元素は扱える場所が限られ、日本では、京大原子炉の廃止後も、京都大学複合原子力科学研究所は貴重な研究拠点です。現在計画が進む新試験研究炉(福井県)との連携で、医療用RIの製造を視野に入れた研究を進めています。