講演要旨 

放射線の利用最前線
—過去から未来へ、細胞から宇宙まで—

 放射線利用とは産業、医療、環境、研究などのさまざまな分野で放射線(X線、ガンマ線、アルファ線、ベータ線、陽子線、中性子線など)を様々な用途(測定、検査、診断、治療など)で活用することを指します。ここでは私自身が40年間も関わった放射線利用、そして仲間たちが研究に邁進する事例を紹介します。


【産業利用】

新日本製鉄に入社して実際の現場に入ると驚いたことに100台以上の放射線利用機器が活躍していました。自動車に使われる美しい鋼板を造るには厚さをミクロン単位で制御する必要があります。ここではガンマ線厚さ計、X線厚さ計が使われています。一方、溶けた鉄を造る工程では、その原料となる鉄鉱石やコークスの水分管理が溶鉱炉の安定した経済的な運転には必要でしたが当時の技術では太刀打ちできませんでした。そこでA製作所、B研究所との共同研究を行い、それぞれの専門技術を融合し、かつ中性子線とガンマ線を同時に用いるアイディアを実現することで4倍高精度の水分測定を可能にしました。新人の頃でしたのでこの成功体験は強烈で、その後の放射線研究者としての道を開き、英国のハーウエル原子力研究所への留学、学位取得へとつながりました。


【環境計測】

放射線医学総合研究所に移りベテランと言われる年齢に達した時に東日本大震災および福島第1原子得発電所の事故がおきました。そのニュースを聞いたのはインドのムンバイの原子力研究所でした。すぐに帰国し、当時研究していた原子力発電所の新型モニタリングポスト(放射線の飛来方向と線量率が分かる)をすぐにホットスポット検出器に転用しました。これはモニタリンポストのCメーカと共同研究、実用化をした経験が役立った事例です。他にも従来よりも10倍高速な汚染検査装置もDメーカと共同開発しました。ここには京都大学が中心で開発した「シンチレックス」が装備されています。ガンマ線に代わる特性X線カメラもEメーカと共同開発しました。


【医療利用】

この分野は放射線医学総合研究所の仲間が、がん発見のための高精度のPET(核医学断層撮影装置)や炭素線がん治療装置、内用療法の研究に邁進し、がんから人類を救う壮大なプロジェクトを進めています。


【研究分野での利用】

宇宙線由来のミューオンを利用した大型構造物(溶鉱炉、鳥居など)やピラミッドの内部探査や、宇宙の構造や起源を探る世界規模のプロジェクトも進められています。


このように多くの研究者によって放射線利用の最前線はさらに前に進むことが確実です。その恩恵は私たち自身にも還元されます。期待していてください。。


ホットスポット
図1. 共同研究成果の環境計測装置(福島向け)

講演者略歴

白川 芳幸(しらかわ よしゆき)
早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 客員教授 博士(工学)

【学 歴】
1980年 3月 東京工業大学 理工学研究科 電気電子工学専攻 修了 
【職 歴】
1980年 4月 新日本製鉄株式会社 君津製鉄所 設備部 部長代理 
                (在職のまま英国オックスフォード州ハーウエル原子力研究所留学)
1996年 5月 福井大学 工学部 電子工学科 講師
1998年 8月 科学技術庁 放射線医学総合研究所 部長
2015年 4月 神戸大学 研究推進機構 教授
2015年11月  早稲田大学 研究戦略センター 教授
2023年 4月 早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 客員教授(現職)

研究テーマ
放射線応用計測、国際研究交流(欧州連合との研究交流企画推進)