KURAMA-IIによる路線バス実証試験について

測定の目的

生活圏に密着した線量率分布を綿密かつ継続的に追跡することです。路線バスに搭載したKURAMA-IIにより、生活圏に密着した形での線量率分布の綿密かつ継続的な把握が可能になると考えています。これは生活圏における被曝量の推定や管理に使えるだけではなく、その原因となる放射性物質の挙動を理解する上でも役立つと考えられます。例えば、除染したあと再び線量率が上昇してしまうという現象が報告されていますが、これは環境中での放射性物質の移動が原因と考えられます。綿密なマップを継続的に作成して変化を把握し原因を特定すれば、効果的な除染方法の確立や除染効果の維持に役立つと期待されます。

測定とデータ

KURAMA-IIを路線バス内部(概ね後部座席後方センターライン側)に設置、エンジン始動〜終了までの間、3秒間隔で線量率と位置情報を測定し送信し続けます。時間を一定間隔としているため、測定点間の距離は一定ではありません。通常のバスの運行速度であれば、30から100 m程度となります。測定データのうち、GPSや放射線検出機の明らかな誤動作の認められるもの以外は有効としています。

メッシュの処理

それぞれの測定点のデータは、概ね100 m × 100 m程度の区画ごとに1週間分のデータまとめて平均値を求め、それをその区画の線量率として公表しています。100 m × 100 m程度の区画としているのは、周囲に分布するCs-137とCs-134のγ線の寄与の度合(例えば田崎さんの解説の「付録:どれくらい遠くからの放射線をカウントするのか?」を参照)やGPSの測定精度(±10 m程度)を考慮したためです。

変化率の計算

変化率については2012年12月20〜31日を基準期間とし、その間に測定した線量率の各区画毎の平均値を基準値として、基準値に対する変化の割合を以下の式で求めています。
変化率(%)= 100 × (測定期間の平均値 − 基準期間の平均値)/基準期間の平均値
このため、特に低線量率では測定値の統計的な変動でも大きな変化率となる場合があり、急な上昇・減少が見られた場合は周囲の測定結果・その後の時間的な変化の傾向なども見て原因を調べる必要があります。

車内→車外への換算

KURAMA-IIは車内に設置されています。そのため、直接測るのは車内の設置箇所における線量率で、車体による遮蔽の効果を考慮して車外の線量率を求めています。このような車体の遮蔽係数は、過去のKURAMAを一般車両に搭載しての調査でも考慮されているものです(例えば文部科学省の報告書のI-29ページ「3.4.2.2 KURAMAシステムを用いた走行サーベイの測定結果の校正試験」参照)。路線バスの遮蔽効果については、福島交通のご協力により実際の路線バスを用いて実測しており、今回の設置箇所の場合は広い線量率の範囲で
車外の線量率 = 1.6 × 車内の線量率
の関係を満たすこと、車外が0.5 μSv/h程度未満では車外の線量率を実際より大きめに見積もる傾向があることを確認しています。大きめに見積もってしまう理由ですが、低い線量率の場合、天然に存在する放射性同位元素からの寄与が大きいことが考えられます。今回の事故で放出された放射性同位元素と天然に存在する放射性同位元素では環境中で異なる分布をしていると考えられ、その結果車体による遮られ方(遮蔽効果)が異なってしまうわけです。これについては今後の実証試験のなかで検証を進める予定です。この試験で公開している線量率では、安全側を与える上記の式で換算しています。

道路上と周辺の線量率の関係

KURAMA-IIでは道路上の高さ1 mの空間線量率を測定しています。そのため、一般には周辺の線量率とは異なる値となり、周辺の環境との関係が問題になります。この道路上と周辺の線量率の相関については文部科学省のKURAMAをつかった調査結果の別紙5、6にもあるとおり、
  • 周辺の土地利用の違いが道路上の線量率の減少傾向に違いを与える
  • 周辺〜300 m程度までの範囲の線量率と強い相関がある
ということが判っています。そのため、今回の実証試験の測定結果から、周辺の環境の放射線量やその変動を把握する事が出来ると考えられます。