KURAMAの概要

KURAMAは、移動しながら位置情報とともに放射線に関する情報を測定するシステムで、いわゆる自動車走行サーベイを実現するために開発されたシステムです。事故直後に開発されたKURAMAはその年のうちに完全自動化やスペクトルデータの収集も可能にしたKURAMA-IIへと移行し、現在運用されているものはすべてKURAMA-IIとなっています。移動しながら放射線量を測るシステムは多数ありますが、KURAMAやKURAMA-IIの特徴は緊急時の大規模な調査での利用を想定していることで、クラウドによるリアルタイムのデータ共有や完全自動化(KURAMA-II)などにより利用者への負担の軽減、データの毀損や測定機会逸失を最小限にすることに注意を払って設計されている点が特徴です。
ここでは現在使われているKURAMA-IIのシステムの概要について説明します。

システム構成

KURAMA-IIのシステムでは、車載機が放射線を計測し、そのデータが時刻と位置情報でタグづけされ、LTE回線を経由してクラウドに送信されます。送られたデータはクラウド上に構成されたサーバシステムのデータベースに登録された上で目的に応じて様々な活用をされます。一般的な地図上での放射線量の可視化だけでなく、オープンソースのファイル共有システムであるownCloudによるデータの共有や、導入先の希望に応じて他の既存の放射線モニタリングネットワークとの連携機能が実装されたりしています。サーバの機能をクラウド上での運用とすることでシステムの冗長性を確保するだけでなく、1台による調査から100台規模の調査までが全く同じ手順で行えるというスケーラビリティを獲得することにも成功しています。

車載機

実際に放射線を計測してデータを送信するのが車載機です。車載機は浜松ホトニクス社製のCsI(Tl)検出器であるC12137シリーズが搭載されています。この検出器の特徴は受光素子に半導体素子であるMPPCを採用していることで、従来の光電子増倍管の検出器に比べ小型軽量かつ衝撃に強くなり、USBバスパワーで動作可能になっています。C12137からのデータはUSBで出力され、小型の組み込み式コンピュータであるNational Instruments社CompactRIOへ送られます。CompactRIOでは放射線データの処理やGPSデータによるタグづけが行われます。検出器はUSBで接続されていることから複数台の検出器の追加も容易です。またCompactRIOの持つ多彩なインターフェースと拡張スロットを使って他の物理量測定測定を同時に行うことも可能です。放射線量の算出にはG(E)関数法が使われています。CompactRIO上で動作するプログラムはNational Instruments社のLabVIEWで記述されています。LabVIEWはWindows/macOS/Linuxをサポートしており、例えばノートPC上でKURAMA-IIを稼働させることも可能です。

スペクトルデータの取得

KURAMA-IIを特徴付けるものとして、スペクトルデータの収集能力が挙げられます。放射線の影響はその種類(α, β, γ線など)やエネルギー、入射した放射線の粒子数に依存します。そのため、どのエネルギーの放射線が何個来たかを測ることが重要になります。KURAMA-IIの車載機では計測したγ線のエネルギーと個数を収集してスペクトルデータを生成しており、これからG(E)関数法で算出した周辺線量当量率とともにスペクトルデータも送信しています。そのため、クラウド側で時間や場所を指定することで当時の放射線場の様子を再現することができ、どのような放射性核種の放射線がどの程度飛来していたかなどを知ることができるだけでなく、得られたスペクトルデータにG(E)関数を再適用することで例えば当時の空気吸収線量率を再評価するといったことや、仮にその場に人がいた場合どのような被曝をするかの推定をする際のデータとして活用することができます。

通信方法

緊急時にはKURAMA-IIの使うLTE回線も十分に機能しない状態が想定されます。一般にモニタリングシステム等ではFTPによるデータ送信が広く採用されていますが、通信回線が安定でない場合には十分に機能しない問題があります。そこで、KURAMA-IIでは不安定な通信環境でも最大限のデータ送信ができるようにWeb Serviceを利用した通信方法を実装しています。送信は非常に小さなデータファイルに分割され、通信可能なタイミングで自動的に送信されます。送信できなかったファイルはCompactRIOのメモリに送信されるまで保持され、通信状態が改善した時に送信が試みられます。特に山間部などの運用のように圏内と圏外を繰り返すような場合でも安定したデータ送信が行われることが確認されています。

多彩な運用実績

KURAMAは2011年6月の文科省による調査を皮切りに様々な調査活動に活用されているほか、原子力災害への備えとして国や自治体などでの導入も進んでいます。ここではいくつかの活用事例へのリンクを紹介します。

普及促進に向けて

技術の独占を防ぎ、社会での普及や活用促進をはかるため、KURAMAやその関連技術は京都大学が権利者となる特許で保護され、非独占ライセンスとして実施企業に供与されて商品化されています。現在の実施企業は松浦電弘社で、KURAMA/KURAMA-IIの各種製造販売を行っています。