■主な研究テーマ
さらに理解や検討を深めていただくために 1.普通ポルトランドセメント主成分の珪酸三カルシウムの構造と水和反応特性 一般的に用いられている普通ポルトランドセメントでは,珪酸三カルシウム(Ca3SiO5)が構成成分の50%以上を占める主成分となっており,その水和反応特性が普通ポルトランドセメントの水和反応を特徴付けています。本研究室では中性子の透過性が高いことを利用して,珪酸三カルシウムのバルク状態の水和反応による構造変化を詳細に観測しました。等温結晶化速度を記述できるAvrami式を用いて珪酸三カルシウムの水和反応の反応速度を解析した結果,水和反応によって多数の空隙が形成されることを明らかにしています。さらに,珪酸三カルシウムに対してミリング処理を加えると欠陥や歪みが生じ,それによって初期の水和反応が劇的に速くなることも明らかにしました。(Cement and Concrete Research 36 (2006) 2033-2038. Physica B, 385-386 (2006) 517-519. Trans. Mater. Res. Soc. Jpn., 31 (3) (2006) 763-766. Trans. Mater. Res. Soc. Jpn., 31 (3) (2006) 783-786 . J. Solid State Chem., 179 (3) (2006) 3286-3294.) 2.中性子散乱によるグラファイト(ナノグラファイト、カーボンマイクロコイルなど)の構造観察 メカニカルアロイング(mechanical alloying: MA)によって種々の物質がナノ化するとともに合金化します。その特性を用いてMAによりナノグラファイト、水素吸蔵グラファイトそしてグラファイト層間化合物の構造を明らかにしております。(J.Non-Cryst. Solids, 293&295,575(2001), J. Alloys & Compounds,327,224(2001), Pysica B, 311, 95(2002)).また、化学気相析出法(CVD)によりファイバー直径約1ミクロン、コイル径は約5ミクロンの螺旋状のカーボンナノコイル(CMC)が形成されます。この炭素材料の工学的応用は広がっていますが、基礎的すなわち原子レベルでの理解は進んでいません。研究室では中性子全散乱法とリバースモンテカルロモデリングにより、CMCにおけるグラフェンの構造形態を明らかにしようとしています。(Trans. Mater. Res. Soc. Japan, 29, 469 (2004)) 3.鉄置換型ランタンガレート系酸化物の酸素イオン伝導と結晶構造 温室効果ガスを軽減するための環境技術開発の中で,注目されている技術として燃料電池があります。燃料電池は水素と酸素を反応させることによってエネルギーを取り出す方法です。この技術の中で重要な役割をするのが酸素分離膜であり,酸素イオン伝導特性が高く,耐熱性に優れた材料が必要とされます。本研究室では酸素イオン伝導体として注目されているランタンガレート系酸化物に着目し,鉄の置換量,温度,酸素分圧を変えることにより結晶構造を変化させ,酸素イオン伝導のメカニズム解明と,より高い酸素イオン伝導材料の開発を目指しております。(Physica B 350 (2004) 1031-1034. Physica B 350 (2004) 1031-1034. Trans. Mater. Res. Soc. Jpn., 30 (3) (2005) 859-862. Nucl. Inst. Met. in Physics Research A 600 (2009) 328-331. Solid State Ionics, 180, (2009) 541-545.) 4.金属ガラスの安定性に関する構造学的研究 ガラスやアモルファス物質は固体ですが結晶のような原子配列の周期性を持たず,液体のような無秩序な原子配列を示します。液体状態から急冷することによって作製される金属ガラスは,2元系に第3元素,第4元素の添加を行い多元系にすることにより,その熱的安定性が増していきます。その原因を構造学的観点から研究しています。例えば,Ni-Zr系金属ガラスにAlを添加することにより,二十面体的多面体が増加し,かつ密度が増加することがこれまでの本研究室の研究により明らかになっております。(J. Metastable & Nanocrystalline Materials, 24-25 (2005) 217., J. Intermetallics, 14 (2006) 893, Physica B,385&386 (2006) 259) 5.中性子散乱による水素化バナジウムの格子構造の観察 金属中の水素の存在状態を知るためにV金属に水素を入れ,中性子がV元素を見ないという特徴を利用して,水素原子の存在状態や水素原子同士の相関を明らかにしようとしています。β-V2Dにおける水素はV原子で構成される4面体内に位置しますが,その水素は通常存在し得ない隣の4面体内にも位置するように観測されることから、4面体間でジャンプを繰り返し移動していることが分かりました。 (J. Appl. Phys. 101 (2007) 123528.1 ) |