核ビーム物性学とは

教授 大久保 嘉高

核ビーム物性学の領域

不安定核のビームである核ビームを中心に原子核と物性の領域を幅広くカバーする学際領域です。

『核ビーム物性学』とは、放射性イオンビームを用いて行う、原子核物理と物性物理にまたがった学際領域の研究分野です。我々の研究室では、放射性イオンビームをつくる装置として、京都大学研究用原子炉に附設したオンライン同位体分離装置KUR-ISOLを使っています。

原子や分子の構造を調べるのに原子分光、分子分光という手段が用いられるのと同様に、原子核の構造を調べるのに、核分光という手段が用いられます。原子核を励起して、そこから放出されるガンマ線、ベータ線、アルファ線などを計測します。原子核は、電荷やスピンを持った陽子、中性子からできていますが、これらの粒子は核力とパウリの原理に従って、ある決まった構造をとります。原子核は、その構造を反映した、スピン、パリティや、磁気モーメント、電気モーメントをもちます。これらの物理量を測定して、いろいろな原子核の構造を調べようというのが、核分光の仕事です。

また、核分光の手法を用いて、新しい原子核、元素を見つけようというのも核分光の仕事です。 原子番号と質量数で決まる核種とよばれるものは、7,000種ほどあると考えられています。

また、1つの核種には、一般に多くのエネルギー状態があり、測定されていないもの、測定されているが誤差の大きいもの、あるいはあやしいものなど、たくさんあります。

原子核は磁気モーメント、電気モーメントをもっていると言いましたが、この性質を物性物理の研究に用いることもできます。たとえば、固体物質中に、それら電磁気モーメントを持った原子核を入れると、まわりの電子の影響(超微細相互作用と言います)を受けて、電磁気モーメントの方向が変化しますが、その変化を追跡することによって、原子核の近傍の電子の構造についてユニークな情報が得られます。医療診断でお馴染みの核磁気共鳴画像法MRIも同じような原理に基づいています。ただ、われわれは、安定な原子核ではなく、放射性原子核を用いて、電磁気モーメントの方向の変化を、ガンマ線をとらえることによって行っています。ガンマ線はエネルギーが高いので、その検出感度は非常に高いことが特徴のひとつです。不安定な状態の原子核をプローブとして用いるので、その状態の寿命の時間程度(数ns-数100ns)の現象を観測できることも、もうひとつの特徴です。KUR-ISOLを使うと、物性物理で重要な、希土類元素の原子核を、物質に注入できることも特徴です。

研究は、複合原子力科学研究所の他、東北大学やイギリスのラザフォード・アップルトン研究所などでも行っています。

体力(physical strength)もつくかもしれませんが、いろいろな物理を学べるこの分野で挑戦してみませんか。