2007年新潟県中越沖地震(Mj6.8)の震源モデル(Ver.2)


1.はじめに
 2007年7月16日10時13分に新潟県中越沖でMj6.8の地震が発生し、柏崎市やその周辺の地域では多くの被害が発生した。 特に今回の地震では震源近傍に存在した東京電力柏崎・刈羽原子力発電所(KK原子力発電所)において、非常に大きな地震動が観測され、 その結果、火災や若干の放射性物質の漏洩など、原子力発電所にとっては初めての地震被害が発生した。ここでは被害の大きかった柏崎市や 原子力発電所などにおける地震動の生成過程を明らかにするため、経験的グリーン関数法を用いたフォワードモデリングによってアスペリティ からなる震源モデルを評価した。震源モデルの評価に重要な役割を果たす震源近傍における記録としては、残念ながらKK原子力発電所における ものが唯一と思われ、ディジタルデータの公開が待たれていた所であるが、8月6日に震災予防協会を通じて公開が開始された。残念ながら現在 入手手続き中で、KK原子力発電所での観測記録を十分活用できないため、現時点では防災科学技術研究所のK-NETやKiK-netによる観測記録を用いた。 ただし、KK原子力発電所の観測記録に見られる大振幅パルス波はアスペリティの位置や破壊伝播を推定する上での重要な情報として用いた。 地震直後には遠地記録を使った波形インバージョン結果も幾つか公表され、そのほとんどは本震のメカニズムとして余震分布から東落ちの逆断層を 想定した結果であった。最近、地殻変動や波形インバージョンから、断層面としては西落ちの方が適切であるとの報告もあり、KK原子力発電所での 観測波形(破壊伝播の指向性効果によると見られるパルス波)もその妥当性を支持していると考え、ここでは西落ちの断層面を仮定した震源の モデル化を行った。なお、現時点ではKK原子力発電所における余震記録は公開されていないため、後述する第3のアスペリティを十分拘束できて いないことも事実である。ただし、KK原子力発電所における第3のアスペリティからのパルス的な地震動の再現を統計的グリーン関数法によって試みた。

2.用いた余震
 ここでは経験的グリーン関数として2007年7月16日21時08分に発生した余震(Mj4.4)を用いた。記録は長周期側の精度を考え、0.2〜10Hzの バンドパスフィルターをかけて用いた。震源情報及び震源パラメータ(震源スペクトルなどから評価)を表1に示す。

3.震源モデル
 図1に最終的に得られた3つのアスペリティを有する震源モデルと観測点位置、本震、余震の震源位置などを示す。
また、図2にはアスペリティの 位置関係を示す。本震のメカニズム等を表2に示す。
 アスペリティ(Asp-1,Asp-2)については明瞭に2つの波群が分離して観測されているK-NETのNIG016(寺泊)などの観測記録との一致度から、その位置、 大きさなどを決定した。第3のアスペリティの存在を示唆する観測記録(例えばバックワード側のNIG016など)もあり、またKK原子力発電所における 記録やK-NETのNIG018(柏崎)における液状化したと考えられる記録も参考にし、Asp-3はKK原子力発電所において断層破壊の指向性が強く現れ、速度 パルス波が生成されるような条件を優先し、その位置や大きさを決定した。その結果、現状のモデルではAsp-3に震源からの破壊伝播が到達する時間に 比べ、KK原子力発電所におけるAsp-3からと見られるパルス波が出現する時間に約3秒の遅れがあり、ここではそのような遅延時間を考慮してすべての 観測点で波形合成を行った。
 図3にはK-NET及びKiK-net(比較的硬質地盤の地表面)観測点における観測波形と合成波形の比較を示す。合成波形は加速度、速度、変位とも観測波形を 良好に再現しており、南西方向への破壊伝播と3つのアスペリティの存在を支持する結果となっている。また、NIG018(柏崎)での観測記録は強い非線形性 (液状化?)を示し、線型な波形合成結果との大きな違いを示しているが、継続時間や包絡形はその有効性を示唆している。このような結果はNIG019 (小千谷)やNIG017(長岡)でも見られるが、2004年新潟県中越地震時の観測波形と合成波形でも同様な違いが見られ、表層地盤の非線形性を考慮する ことによって観測記録の再現は可能と考えられる(Kamae et al.2005)。図4にはK-NET及びKiK-netにおける擬似速度応答スペクトルでの比較を示す。
 図5には参考までにKK原子力発電所における統計的グリーン関数法による地震基盤での合成結果を示す。同図にはKK原子力発電所における観測記録 (サービスホール地盤観測記録SG4:T.M.S.L-182.3m)も示す。それぞれのアスペリティからの地震波の継続時間が短いため、波形の包絡形も不十分で あるが、波形の特徴(全体の継続時間など)はほぼ再現できているように見える。また、速度波形ではAsp-1とAsp-3からのパルス波が生成されている。

4.おわりに
 今回の地震の断層面としては西落ちが有力であるとの情報を考慮し、またKK原子力発電所におけるデータの公開などを受け、経験的グリーン関数法 を用いたフォワードモデリングによって3つのアスペリティからなる震源モデルを評価した。ただし、第3のアスペリティについては、その場所、 大きさ、応力降下量など、詳細な震源パラメータについては暫定的なものである。

5.謝辞
 ここでは(独)防災科学技術研究所によるK-NET及びKiK-netの記録を使用させていただきました。記して感謝の意を表します。

6.参考文献
 Kamae, K., T. Ikeda, and S. Miwa: Source model composed of asperities for the 2004 Mid Niigata Prefecture, Japan, earthquake (MJMA =6.8) by the forward modeling using the empirical Green's function method, Earth Planets Space, Vol.57,No.6,pp.533-538,2005.



図1

図1 2007年新潟県中越沖地震(Mj6.8)、経験的グリーン関数として用いた地震(Mj4.4)の震央位置、
    K-NET及びKiK-net観測点位置、及び3つのアスペリティからなる震源モデル(アスペリティのみ) の位置



表1 経験的グリーン関数として用いた地震の諸元

経験的グリーン関数として用いた地震の諸元



2007年新潟県中越沖地震の3つのアスペリティからなる震源モデル

2 2007年新潟県中越沖地震の3つのアスペリティからなる震源モデル


2 2007年新潟県中越沖地震の震源パラメータ

2007年新潟県中越沖地震の震源パラメータ



NIG005

NIG016

NIG018

NIG021

NIG025

NIGH07

NIGH15

NIG017

NIG019

図3 合成波形と観測波形の比較(0.2Hz〜10Hz)



擬似速度応答スペクトルの比較(減衰5%)

図4 擬似速度応答スペクトルの比較(減衰5%)



                     (a)KK発電所における観測波形

                             (a)KK発電所における観測波形
                     (サービスホール(T.M.S.L.−182.3m)の加速度時刻歴波形)

                     (b)統計的グリーン関数法による合成波形

                             (b)統計的グリーン関数法による合成波形

                     図5 統計的グリーン関数法によるKK原子力発電所における波形合成



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