中性子の加速を自在に制御する手法を開発、実証

2012年9月11日 更新

今日、中性子ビームは物質の構造解析やがん治療など様々に利用されています。しかし中性子は電荷を持っていないため電場や磁場による運動の制御が難しく、利用効率が高くありませんでした。今回、北口雅暁助教(粒子線基礎物性研究部門)、京大、九大、名大、KEK、理研の研究グループは、勾配を持つ磁場と高周波磁場の組み合わせによって中性子の運動を精度よく制御し、中性子の利用効率を向上させる手法を開発、実験的に実証しました。

通常、陽子や、電子など電荷を持つ粒子は、電場を用いて加速させることができます。一方中性子は電荷を持たないため、電場を使った加速は出来ません。そこで中性子の小さな棒磁石としての性質(磁気モーメント)を用います。磁気モーメントは磁場の勾配から力を受けます。これまでにも六極磁場を利用して横向きに力を与え、中性子ビームの集束させることに成功しています。広がるに任せていた中性子のビームも集光光学系を構成することが出来、中性子小角散乱などに於いて、その利用効率を二桁程度改善させることが出来ます。(図1)


図1:荷電粒子は電場で加速したり磁場で制御することができますが(上)、中性子の制御はこれまで難しく、利用効率は高くありませんでした(下)。

この力を進行方向に用いれば、中性子を加減速させることができます。しかしこれまでこの原理を有効に使った加減速の制御は実証されていませんでした。単純に磁場ポテンシャルを通過させるだけでは磁場への入口での力と出口側で働く力の積算が帳消しになり、正味の加速にはならないのです。そこで中性子の通過の最中に交流磁場によって磁気モーメントを反転させ、中性子からみたポテンシャルが帳消しにならないようにすることで、正味のエネルギー変化を起こさせます。今回、勾配磁場と交流磁場を組み合わせることにより、入ってくる中性子の速度に応じて加減速の大きさを自在に制御できることを実証しました。(図2)


図2:勾配磁場と高周波磁場の組み合わせによって中性子を加減速し、空間的に集束させることに成功しました。

また、中性子のエネルギー分布を操り、進行方向に広がっていた中性子を空間的・時間的に集束させることにも成功しました。(図3)これを用いれば実験に必要な位置での中性子の密度を向上させることができ、利用効率を格段に向上することができます。例えば、素粒子物理学の重要なテーマである時間反転対称性の破れと関係する中性子の電気双極子モーメントの測定などでは中性子密度が測定精度の向上の鍵になっており、今回の成果が活用できると期待されています。


図3:今回の実験で得られたデータ。中性子が塊になって検出器に入り、ピークになっている事がわかります。

今回の成果は物理学の論文誌 Physical Review A に8月23日付けで掲載されました。

論文情報

DOI

10.1103/PhysRevA.86.023843

著者名

Y. Arimoto, P. Geltenbort, S. Imajo, Y. Iwashita, M. Kitaguchi, Y. Seki, H. M. Shimizu, T. Yoshioka

題目

Demonstration of focusing by a neutron accelerator

掲載誌

Phys. Rev. A 86, 023843 (2012)

 

  • ※本研究は、文部科学省の科学研究費補助金および量子ビーム基盤技術開発プログラム、山田科学振興財団研究援助による支援を受けて実施されました。
  • ※本研究は高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所の中性子散乱S型課題(2009S03)として採択、遂行されました。

関連リンク


図4:研究グループのメンバー。後ろに見えるのが中性子加減速器本体。