鉄の水素脆化防止の新しい手法を提案

2017年12月6日 更新

徐虬 原子炉実験所准教授らの研究グループは、鉄の水素脆化防止の新しい手法を提案しました。
本研究成果は、2017年12月5日に英国の科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

研究者からのコメント
鉄鋼材料において、重要な劣化事象として知られている水素脆化を防止するため、二つの方法を発見しました。これらの手法は常識では考えられないものでありますが、鉄鋼材料の水素脆化を遅らせることを確認しました。

概要:

鉄鋼材料はわれわれの生活にかかわるインフラに最も広く使われているものです。鉄鋼材料の水素脆化の現象が140年前に発見されましたが、脆化のメカニズムはまだ明らかになっていません。鉄鋼材料の水素脆化を防ぐために、様々な方法が開発されました。本研究では、鉄にとっては通常有害であるとされるヘリウム原子の注入や、表面へのイオン照射によって損傷を与えることで、亀裂の成長や水素の拡散・浸入を遅らせ、水素脆化を抑制します。

 

背景:

水素は世の中に最も多く存在する元素です。一般的に金属材料に水素が入ると脆くなり、これを水素脆化といいます。鉄鋼材料の水素脆化は古くから知られていますが、そのメカニズムはまだ分かっていません。これまでに提案されてきた鉄鋼材料の水素脆化のメカニズムには、局所塑性助長理論(Hydrogen-Enhanced Localized Plasticity, HELP)や水素誘起分離理論(hydrogen-induced decohesion, HID)などがあります。前者は実験結果、後者は計算機シミュレーションの結果に基づいたものです。一方、鉄鋼材料の水素脆化の防止法として、水素侵入を防ぐコーティング法や水素原子の移動度を減少させる方法などが挙げられます。数年前に、著者らは転位を含む鉄にヘリウムを導入しましたが、脆化するだろうという予想に反して、鉄の延性が良くなりました。
本研究では、この実験結果を踏まえて、転位を含む鉄において水素脆化に及ぼすヘリウムの注入効果を調べました。また、鉄中の水素の拡散を遅らせるため、鉄の表面に原子空孔などの欠陥を作り、水素脆化の防止効果を試みました。

研究手法・成果:

転位を導入した鉄に、原子のはじき出しが起きない低エネルギーのヘリウムと水素を注入しました。引張試験機により鉄試料の延性を調べたところ、水素を注入した試料の延性は悪くなったのに対して、ヘリウムを注入すると、鉄の延性が良くなりました。引張試験後の試料の微細構造を調べた結果、ヘリウムを注入することによって、引張変形中に形成する微細な亀裂の成長が抑制されることがわかりました。これは、ヘリウム原子が亀裂の成長に必要な原子空孔の拡散を遅らせたことを示唆しており、結果として、試料の延性が良くなりました。
また、原子のはじき出しが起きる高エネルギーのヘリウムを鉄に照射したところ、鉄の表面に水素をトラップする原子空孔が形成し、水素拡散が抑制され、水素脆化が改善しました。

 

波及効果、今後の予定:

これからの低炭素社会においては、水素がクリーンエネルギーとしてますます注目されています。従って、水素をいかに安全かつ安く、貯蔵または輸送することは非常に重要なことです。本研究で得られた知見を用いて水素を安全に使える材料の開発に貢献したいと考えています。

 

研究プロジェクトについて

本研究は科学研究費補助金・基盤研究(C)「金属におけるHeによる伸び増加の異常現象の解明」の支援を受けました。

 

論文タイトルと著者

[DOI]  10.1038/s41598-017-17263-8

[タイトル]“Novel Methods for Prevention of Hydrogen Embrittlement in Iron”

[著者]Q. Xu, J. Zhang

[掲載誌]]Scientific Reports 7 : 16927
www.nature.com/articles/s41598-017-17263-8