生体分子構造研究分野    研究室のサイト

准教授 茶竹 俊行 chatake*
助教 喜田 昭子 kita.akiko.4u**
助教 川口 昭夫 akawagch*

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生体分子は生命を構成する分子機械であり、その多様な立体構造は機能と強く結びついている。生体分子の構造と機能を明らかにするためには、立体構造決定は必要不可欠である。 結晶回折法は強力な立体構造解析法であり、生体分子の立体構造の約80%はX線結晶解析で決定されている。近年では、AlphaFoldによる構造予測や、クライオ電子顕微鏡による解析が増加しているが、原子位置を正確に決定できるX線結晶解析は未だ重要な構造解析法である。一方で、中性子線は水素原子に対する散乱長が大きいこと、同位体間で散乱長に違いがあることから、生体分子の水素原子の位置決定に長所がある。本研究室では、X線結晶解析と中性子結晶解析を相補的に利用して、生体高分子の構造解析を行っている。

1. D/Hコントラスト中性子結晶解析 中性子線の重水素と軽水素に対する散乱長は大きく違っており、軽水溶媒結晶と重水溶媒結晶の中性子フーリエ図の差分をとれば、蛋白質中のアミノ基や水酸基の水素原子と水分子の水素原子がコントラスト (重水素/軽水素コントラスト) して観測される 。D/Hコントラスト中性子結晶解析は、水素原子の解析の効率と精度を飛躍的に改善することが期待される。重水素と軽水素のコントラストを実空間差分から計算するアルゴリズムを開発して、蛋白質のD/Hコントラスト中性子結晶解析を進めている。


図1. 中性子D/H コントラストマップで見る水分子。(a) 水分子の運動の違いで区別される二種類の水分子。(b) 通常の中性子マップとの重ね合わせ。

2. 納豆由来水溶性ビタミンK2の構造研究 納豆の中には脂溶性のビタミンK2の一つメナキノン-7 (MK-7)と、K-binding factor (KBF) と呼ばれるペプチドからなる大型の水溶性粒子 (natto-MK-7) を多く含んでいる。 ビタミンKは血液凝固と骨形成に関連しており、医学・健康への応用研究が盛んである。その一方で、MK-7を含む全てのビタミンKは水に難溶なため、natto-MK-7の水溶性という特性は応用分野における大きな利点である。主成分であるKBFの構造と、KBFがnatto-MK-7を形成するメカニズムを明らかにするために、natto-MK-7の高純度精製と構造解析を行っている。

図2. 納豆由来水溶性ビタミンK2 (natto-MK-7)の構造モデル

3. 新規または生物学的に興味深い蛋白質の構造研究 上記1.のような中性子線で水素を含んだ構造を知るためには,まず水素を含まない構造を知る必要がある.そのために,分子量の制限がないX線結晶解析法で構造解析を行っている.これまでに共同研究者とともに様々な新規構造をもつ蛋白質や生物学的に興味深い蛋白質の構造を明らかにしている