粒子線物性学研究分野の杉山正明教授が参画する共同研究チームの研究成果が発表されました

2025年10月31日 更新

筋萎縮性側索硬化症(ALS)の病態抑制因子を発見~ アカデミアの知の結集が拓く、治療法開発への大きな一歩~

2025 年10 月16 日、粒子線物性学研究分野の杉山正明教授が参画する、モルミル社CEO森英一朗、モルミル社科学顧問の先生方(齋尾智英(徳島大学)、杉江和馬(奈良県立医科大学)、青木正志(東北大学)、森正之(石川県立大)敬称略)の共同研究チームの最新研究が国際科学誌「Nature Communications」に論文公開されました。日本のアカデミアの多種多様な技術や専門性を集結させることで、初めて実現した成果です。

この論文では、モルミル社コア技術「MAGmir(読み:マグミル、1)」により、神経変性疾 患のひとつである筋萎縮性側索硬化症(以下、ALS、2)の病態発症メカニズムに、「ジンクフィンガードメイン(ZnF)」という因子が重要な機能を持つことを明らかにしました。

ALS は、運動神経が徐々に機能を失い、筋力低下や呼吸障害を引き起こす進行性の難病であり、根本的な治療法の確立が課題となっています。
これまでの研究から、ALS などの神経変性疾患では、タンパク質が細胞内でゆるやかに結びついたり離れたりする「相分離」という現象に異常が起き、やがて塊(凝集体)を形成して細胞の働きを妨げることが知られています。

今回の研究では、ALS 患者由来のiPS 細胞を用いた解析を手掛かりに、ZnF という因子の働きを解析しました。ZnF は古くから、DNA 結合タンパク質として認識されていた因子です。核磁気共鳴法(NMR)を含む、分子の様々な構造動態評価技術による詳細な解析の結果、ZnF が凝集に繋がる状態のタンパク質を識別し、結合することで凝集を抑えるという、新たな役割を持つことを発見しました。

この成果は、ZnF が正常に働けばALS は発症しない可能性があるという、発症の根本に迫る新しい視点をもたらしました。ZnF そのものを薬にするには、様々な乗り越えなければいけない課題がまだまだ多くあります。しかしながら、今回明らかになったZnF の機能を更に掘り下げて理解を深めていくことで、ALS の治療薬の糸口を見出し、その過程でALS 治療薬の種(シーズ)を生み出すことに繋がっていくと期待しています。


詳しくは以下の記事をご覧ください。
▼日本経済新聞「奈良県立医科大学など、ALS 原因抑制の因子発見 治療法開発に期待」
https://lnkd.in/gqq9KYBB
▼奈良テレビNEWS「県立医大などの研究チーム ALSの原因を抑制する因子を発見」
https://lnkd.in/gvsbHVvm
▼奈良テレビNEWS (YouTube)「県立医大などの研究チーム ALSの原因を抑制する因子を発見」
https://lnkd.in/gUVXC3Ms

論文(Nature Communicationsに掲載)に関するプレスリリース
▼奈良県立医科大学ホームページ「神経変性疾患に関わる新たな相分離制御因子を発見-ALSの病態解明や治療法開発に希望-」
https://www.naramed-u.ac.jp/university/kenkyu-sangakukan/oshirase/r7nendo/zincfingerdomains.html
(*1):MAGmir
核磁気共鳴法 (*3)を利用した詳細な分子動態情報を取得する方法
(*2) :筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋肉が萎縮し、力が弱くなっていく病気。筋肉そのものではなく、筋肉を動か し、運動をつかさどる神経(運動ニューロン)が障害を受ける。これにより筋 肉を動かす命令が伝わらなくなることで、筋肉が痩せていく。
(*3):核磁気共鳴法(NMR)
NMR はNuclear Magnetic Resonance の略。磁場中に置いた物質の原子核が自転し、電磁波に応答する性質を利用して、分子の構造や性質、運動状態を調べる分析手法。溶液中における生体分子を原子分解能で観察することができる。

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