杉山研究室

京都大学 複合原子力科学研究所

粒子線物性学研究室

Sugiyma Lab. Radiation Material Science, Kyoto University

小角散乱と超遠心分析の複合的アプローチによる多分散・多成分溶液における構造解析:AUC-SAS

X線や中性子を用いた小角散乱(SAS)では溶液中の全分子の集団平均の散乱プロファイルが得られるため、単分散となるように精製した試料を用いる。しかしながら精製直後にも関わらず目的分子同士の凝集体が残存する「多分散系」や、解離会合平衡により複数種類の分子や複合体が共存する「多成分系」では、目的分子(あるいは目的複合体)の散乱プロファイルを得ることが困難である。そこで、超遠心分析(AUC)で得られる溶液中の分子の重量分率を用いてSASプロファイルを成分分離するアプローチ「AUC-SAS」を開発した。AUC-SAS法は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって単離が難しい試料や、小角散乱装置にSECが併設されていない場合に威力を発揮する。
多分散(凝集を含む系)に対するAUC-SASソフトウェアは
(http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSBNG/activity.html)でダウンロード可能。

複合蛋白質間のサブユニット交換現象

複合タンパク質間のサブユニット交換現象の解明

複合タンパク質間で構成要素のサブユニットが交換しているという現象を発見した。実験は、重水素と軽水素を見分けると言う中性子の特徴を生かし、特別に作成した重水素化タンパク質と(普通の)軽水素化タンパク質を混合し、中性子小角散乱の散乱強度の経時変化を測定した。この時、両者間でサブユニットが交換現象が発生すれば、散乱強度は減少していく。下図は、実際のデータで確かに散乱強度が減少していることが分かる。

複合蛋白質間のサブユニット交換現象

マルチドメインタンパク質の内部運動の直接観察

マルチドメインタンパク質の内部運動はタンパク質自身の機能に密接に関与するこ とがこれまで主に計算的手法により予測されてきたが、実験的に内部運動を観る手法 は非常に限られており、その非常に限られた手法においてもラベリング等の系に対し て摂動となり得る操作が必要とされる。  最近、我々は中性子スピンエコー法 (NSE) を用いるとラベリング操作無しで溶液 中のタンパク質の内部運動を観測出来ることを明らかにした。しかしながら、今後よ り構造的に複雑なタンパク質の内部運動の記述にはより高度な解析手法の確立が必要 不可欠である。  そこで、現在我々はNSE法と分子動力学計算 (MD) をカップルさせた新規解析手法 の確立を目指している。

マルチドメインタンパク質の内部運動

マルチドメインタンパク質の溶液構造

タンパク質は特異的な立体構造を持ち機能を発現していると考えられている。この立体構造は単結晶X線構造解析法により詳細に解明されるが、実際のタンパク質は結晶状態ではなく細胞中で溶解して存在していることが多く、その構造は結晶構造と異なっていると考えられる。  我々は溶液中のタンパク質の構造を中性子小角散乱法を用いて解明することを目指している。水晶体を構成するタンパク質の1つβB2クリスタリンは、図にあるように2つのドメインを持っている。結晶構造解析の結果では、44Å離れているが、この構造モデルでは溶液中のβB2クリスタリンの中性子小角散乱曲線は再現できない。そこで、RMC法を用いた解析を行った結果、2つのドメインは32Åまで接近しており、ほとんど接している事が判明した。

マルチドメインタンパク質の溶液構造