京都大学研究用原子炉(KUR)

Kyoto University Research Reactor

研究用原子炉(KUR)ホームページ

KURは、スイミングプールタンク型の原子炉で、物理学、化学、生物学、工学、農学、医学等広く実験研究に使用されている。

炉心は、約20%濃縮ウランの板状燃料要素と黒鉛反射体要素とからなり、軽水を減速・冷却材とした熱出力5,000 kW、平均熱中性子束約3×1013 n/cm²s の原子炉である。

KUR運転の制御は、ホウ素入りステンレス鋼製の粗調整棒4本と微調整棒1本で行われる。KUR本体は、直径2 m、深さ8 m、厚さ1.2 cm のアルミニウム製タンクに水を張り、その底部に炉心が設けられている。炉心で発生した熱は、タンク水を強制循環することにより取り出し、熱交換器から二次冷却水に移して冷却塔から大気中に放散される。

KUR建家は、直径28 m、地上22 m、地下7 m の円筒型で、コンクリート壁と溶接鉄板により気密が保たれ、送排風機で常時減圧されていて、予期しない場所からの空気の漏出がないようにしてある。事故時には吸気・排気口が機械的に封鎖され、同時に水を用いて空気の出入りダクトを密閉する。この場合、建家内の空気は非常用の各種フィルタを通して清浄され、スタックから排出される。

KURに付属する実験設備には、実験孔(4本)、照射孔(4本)、熱中性子設備(重水、黒鉛)、圧気輸送管(3基)、水圧輸送管、傾斜照射孔、貫通孔および炉心内には照射中の試料温度を制御できる精密制御照射管、週単位で照射が行われる長期照射設備がある。

平成23年3月11日に発生した東京電力福島第一原子力発電所の事故を踏まえて、原子力規制委員会は研究炉の新規制基準を策定し、国内の全ての研究炉は新規制基準の下で新たに許可を受けることが必要となった。KURについても、2014年5月より運転を休止し、原子力規制委員会による安全審査を受けるとともに、その後の改修工事・検査に取り掛かった。休止から3年を経た2017年8月に、KURは新たな運転許可を取得し、同月に共同利用のための運転を開始した。
KUR炉室
KUR炉室

原子炉水平断面図 4原子炉断面図-2

水圧輸送管

試料をアルミニウム製のキャプセルで炉心の近くまで運ぶことで、高い中性子束での照射が可能な照射設備である。照射は炉頂のサブプールから行い、照射後のキャプセルはサブプールを経由しホットケーブ室のキャナルに送られる。化学、物理学、地球宇宙科学、環境科学、材料工学など様々な分野において、極微量元素を対象とした中性子放射化分析や中・長寿命の同位体製造などに用いられている。

圧気輸送管

試料をポリエチレン製のキャプセルで炉心の近くまで運んで中性子を照射する設備で、Pn-1、Pn-2、Pn-3 の3種類がある。それぞれ照射できる中性子強度が異なり、実験条件に応じて選択できる。ホットラボのホットケーブ室、ジュニアケーブ室、第1実験室にキャプセルの出し入れをするステーションが設置されている。化学、物理学、地球宇宙科学、環境科学、医学、生物学、材料工学など様々な分野において、中性子放射化分析、同位体製造などに用いられている。

傾斜照射孔

比較的大きな試料に対して中性子照射を行うことができる照射孔である。 照射孔内は水で満たされており、試料を容器に入れて炉頂から照射孔内に容器を吊り下げた状態で照射を行う。照射試料に信号線などを接続し、照射中にリアルタイムでモニターすることも可能である。

長期照射用プラグ/炉心照射

アルミニウム製のキャプセルに封入した試料を、炉心内で最長1年間の照射をすることができる設備である。主に長寿命の同位体製造や材料照射などに用いられている。

重水中性子照射設備(D2O設備)

本設備は、従来、γ線の混在が少ない典型的なマックスウェル分布を持つ熱中性子照射場として、物理工学および医学生物学関係の研究分野において利用されていた。特に、医学利用として、脳腫瘍および悪性黒色腫に対する硼素中性子捕捉療法(BNCT)が行われ、1995年までに合計61例の臨床が行われた。そして、1995年11月から1996年3月にかけて、BNCTの高度化を主目的に、(1)設備の安全性の向上、(2)熱中性子から熱外中性子までの利用を可能とする性能向上、(3)5MW連続運転中の医療照射を可能とする等の使い勝手の向上、の3点に関して改修が行われた。

本設備は、KUR炉心に接して約2m3の重水タンクを有している。重水タンク内の炉心側に、熱外中性子成分を増加させるための、体積比80%/20%のアルミニウムおよび重水で構成されている厚さ65cmの熱外中性子減速材が組み込まれている。その外側には、中性子エネルギースペクトルをコントロールするための、中性子エネルギースペクトルシフターおよび重水シャッターが組み込まれている。スペクトルシフターは厚さ10、20、30cmの3層、重水シャッターは厚さ30cmの1層で構成され、各層の重水は独立して出し入れできる。重水シャッターの外側には、熱中性子成分をカットするための厚さ1mmのカドミウムフィルターが2層組み込まれている。

本設備では、中性子エネルギースペクトルシフターの重水厚さの調整、および、2層のカドミウムフィルターの開閉により、ほとんど純粋な熱中性子から熱外中性子まで様々なエネルギースペクトルを持つ中性子照射が可能である。スペクトルシフターおよび重水シャッター各層の重水の有無、ならびに、2層のカドミウムフィルターの開閉の組み合わせのみでも、64通りの照射モードが設定できる。本設備で得られる熱中性子束は最大で5×109cm-2s-1程度、熱外中性子束は最大で5×109cm-2s-1程度である。改修後も引き続き、物理工学および医学生物学関係の研究分野に利用されているが、様々なエネルギースペクトルを持つ中性子照射が可能となったことから、その利用の幅が広がっている。

BNCT医療照射については、熱中性子単独照射、熱-熱外中性子混合照射、熱外中性子単独照射の3つの照射モードを患部に応じて使い分けることができる。2001年12月には世界初の口腔癌に対するBNCTが熱外中性子照射により行われ、2002年6月には脳腫瘍に対する非開頭の熱外中性子照射が開始された。本設備での医療照射は2020年1月に終了したが、脳腫瘍267件、頭頸部腫瘍210件、皮膚腫瘍29件、肺腫瘍44件、肝腫瘍10件、その他24件、総計584件の医療照射が行われた。

重水中性子照射設備

重水中性子照射設備

中性子導管

鏡面を有する物質表面に一定角以内に入射した低速中性子は全反射するという原理に基づいて低速中性子を中性子源(炉心)から遠方までその強度を減少させることなく導く設備を中性子導管という。中性子導管には2種類あり、一つは中性子ミラーとしてニッケルがフロートグラスの表面に約200nm蒸着されたニッケルミラーを用いたものであり、他はニッケルとチタンの多層膜スーパーミラーを用いたものである。スーパーミラーは層厚を少しずつ変化させ広い波長 範囲の中性子が全反射するように工夫したもので、ニッケルミラーに比べ短波長領域の中性子も全反射されるので強度は強くなる。

中性子導管に曲率を持たせれば、中性子源から発生する速中性子やガンマ線は途中で除かれるので測定のバックグラウンドを減らすことができ、測定精度の高い実験ができる。また、中性子導管を用いると遠方まで導くので広い実験スペ-スが利用できる等の特徴を有する。

KURでは、日本で最初の中性子導管であるE-3導管と、世界初の本格的スーパーミラー中性子導管であるB-4導管等が設置されている。それらの中性子束及び主たる利用目的は以下の通りである。E-3ニッケルミラー中性子導管出口の全中性子束は2×106n/cm²sであり、BNCT研究に特化した即発γ線分析を行っている。B-4スーパーミラー中性子導管出口の全中性子束は5×107n/cm²sであり、主に中性子イメージング(ラジオグラフィ)実験が行われている。また、CN-2中性子導管出口の全中性子束は5×107n/cm²sであり、中性子小角散乱装置が設置されている。CN-3中性子導管出口の全中性子束は2×107 n/cm²sであり、中性子反射率測定や中性子光学素子開発が行われている。

低速陽電子ビームシステム(B-1実験孔)

この実験設備は原子炉炉心のガンマ線による対生成反応で生じる陽電子をビームとして引き出し、陽電子消滅分光法による材料分析に使用することを目的として設置されたものある。線源部で生成した陽電子を熱エネルギーまで減速した後、10 eV程度のエネルギーでビームラインに引き出し、試料に照射する際に最大30 keVまで加速する。陽電子は電子と再結合して0.511 MeVの2本のガンマ線を放出して消滅するが、ガンマ線の放出時間やエネルギー分散から陽電子消滅寿命やドップラー拡がりが測定できる。空孔やボイドなどの材料中の原子レベルの空隙に陽電子が捕捉されると陽電子の寿命が長くなるとともにドップラー拡がりに変化が生じることが知られており、これらの原理を用いて材料中の空隙に関する情報を得ることが可能である。
低速陽電子ビームシステム
低速陽電子ビームシステム

B-2実験孔照射装置(B-2)

B-2実験孔に設置された照射装置で、圧気輸送管では照射することができない溶液試料や大きな試料に対して中性子照射をすることができる。また、照射位置と測定室との間を信号線でつないで試料の状態をオンラインで観察することもできる。化学、物理学、医学、生物学、環境科学などの分野において、中性子放射化分析、飛跡イメージング、物理特性のリアルタイム測定などに用いられている。
B-2
B-2実験孔照射装置

中性子イメージング設備(E-2 & B-4)

熱中性子を用いた中性子イメージングは、沸騰二相流、燃料電池内やコンクリート、さらには植物内部の水分挙動の把握に極めて有効な可視化技術であり、最近では超臨界水の混合や宇宙用機器の開発にも応用されている。KUR炉室内に設置されたE-2ポートと炉室外に設置されたB-4導管実験室の二つの中性子イメージング設備が利用可能である。

E-2ポートでは、比較的大きな視野(φ15 ㎜)を有した中性子ラジオグラフィ撮影が可能であるが、熱中性子束は低く(3.2×10n/cm2s程度)、主に静止画の取得に利用されている。また、CT画像取得システムを整備しており、3次元的な把握に対しても利用されている。

B-4導管実験室は、世界初の本格的なスーパーミラー導管を備えた実験室であり、比較的高い熱中性子束(5×10n/cm2s@5 MW運転時)を得ることができる。そのため、静止画撮影のみでなく、高速度ビデオカメラを組み込んだ撮影システムを利用した動画像撮影を行うことができる。また、原子炉の安全研究にも重要となる沸騰現象の把握のために、加熱用直流電源(最大20 V、1200 A)および冷却設備を備えた沸騰二相流用加熱ループを整備している。さらに、中性子ラジオグラフィとの相補的なデータ取得を鑑みて、X線発生器および撮像システムからなるX線ラジオグラフィ装置を新たに整備し、平成26年よりX線ラジオグラフィ実験装置の共同利用を開始している。

これらのイメージング設備では、神戸大、関西大、東京理科大、東北大、岩手大、茨城大、名古屋大、鹿児島大、日本原子力研究開発機構などの多くの研究者との共同利用が行われている。

沸騰二相流ループ(B-4導管実験室)
沸騰二相流ループ(B-4導管実験室)

精密制御照射装置(SSS)

高温度領域(90℃~500℃)における制御した材料照射を行うために設置された照射設備である。原子炉に試料温度を原子炉出力と独立に電気ヒータ及びヘリウムのガス圧を変えることにより設定できる高度な温度制御装置が付属している。中性子スペクトルを反射体・炉心プラグ等の炉心要素の組み合わせ等により変化させた照射を行うことが可能である。照射時間は照射中に試料を引き上げることで任意の照射量を選択することができる。現在炉心「E-7」に挿入されており、全中性子束は3.9×1013n/cm²、高速中性子束(E>0.1MeV)は9.4×1012n/cm²である。
精密制御照射装置(SSS)

精密制御照射装置(SSS)

オンライン同位体分離装置(T-1 貫通孔)

短寿命中性子過剰原子核の構造に関する核分光学の分野と、原子核をプローブとする物質科学(核物性)の2つの研究分野で利用されている装置である。濃縮ウランを熱中性子で照射し、核分裂で生じた不安定原子核をHe-jet法によりイオン源へ導き、イオン化する。イオン化された元素を加速、収束した後、電磁質量分離により目的とする原子核だけを精度よく取りだす。本装置は高温熱イオン源を用い、アルカリ、アルカリ土類、希土類元素を効率よく分離できる。2つの研究分野に応じて2つのビームコースが設けられている。核分光コースでの質量分解能は約900、加速エネルギーは30 keVであり、テープコレクターが付設されている。核物性コースでの質量分解能は約600、加速エネルギーは後段加速器により30–200 keVの範囲で可変である。


オンライン同位体分離装置(KUR-ISOL)

中性子小角散乱装置(CN-2)

中性子小角散乱法(SANS)は、試料のナノ構造を解析するための手法であり、ポリマー、ミセル、タンパク質、金属、磁性体などの様々な試料の研究に利用されている。CN-2には多層膜モノクロメータと3He二次元検出器、透過率検出器を備えたSANS装置が設置されている。多層膜モノクロメータは、一般的なSANS装置で用いられる中性子速度選別機と比較して小さく、メンテナンスが容易であるという特徴を持つ。使用できる波長は0.3 nmと0.46 nmである。試料に0.5 Tの磁場を印加することができる。データ収集システムはイベントレコーディング方式であり、フレキシブルなデータ処理が可能である。


中性子小角散乱装置

中性子光学・検出器評価ポート(CN-3)

CN-3実験孔は冷中性子源(CNS)を見込む形で中性子導管が設置されている。図1にKURと冷中性子導管配置を示す。ここでKURが5MW出力時における導管出口の中性子束はCNSが非運転時(CNS-off)は3.8×106n/cm2/sであり、CNS-onは1.9×107n/cm2/s)である。ただしCNSは現在運転していないため、CNS-offの中性子強度となる。またKURが1MW出力では、7.6×105n/cm2/sである(CNS-off)。
CN-3導管の全長は10.5mであり、1要素は長さ70cmのスーパーミラー15要素を曲率半径441mになるように多角的に曲げて利用している。特性波長は0.24nmでありビームサイズとなる導管の内部の断面は、幅20mm 高さ90mmである。利用可能な中性子波長は約0.15~0.5 nmである。曲導管を採用することで波長0.1nmより短い中性子ビームはほとんどなく、高速中性子及びγ線は非常に少ない。
図2にCN-3ビームラインの概要を示す。CN-3中性子導管出口周辺には遮蔽体が常設されており、その中に中性子チョッパーが設置されている。また新規制基準に対応して、導管出口には防火シャッターが設置されている。防火シャッターと中性子チョッパーの間には光学ベンチと300mm程度の空間があり、中性子イメージング及び低バックグラウンドで高い中性子束が必要な検出器テスト等が可能である。
また遮蔽外には、長さ3mの光学ベンチが設置され、中性子反射実験等の中性子光学実験に利用可能である。

KURと冷中性子導管配置図1 KURと冷中性子導管配置 CN-3ビームライン実験配置概要置図2 CN-3ビームライン実験配置概要置