京都大学 複合原子力科学研究所
核放射物理学研究室

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メスバウアー効果

Mössbauer(メスバウアー)効果

励起状態にある静止した原子核が基底状態に遷移する際にγ線が放出されるとき、運動量保存族から原子核はγ線と反対方向に反跳を受けます。 このとき放出されるγ線のエネルギーは、エネルギー保存則より下図のようにその反跳のエネルギー分だけ、励起状態と基底状態のエネルギー差よりも小さくなってしまいます。

原子核の励起状態のエネルギーの多くは10keV以上にもかかわらずその線幅がneV程度のものが存在します。 例えば57Feの場合、第1励起状態のエネルギーは14.4keVですが、その線幅は4.6neVとなっています。 ここで、反跳エネルギーが線幅に比べて無視できるくらい小さければ、反跳を伴ってエネルギーが減少したγ線で他の基底状態にある原子核を励起することが出来るはずです。 しかし、57Feの場合のγ線の反跳エネルギーは1.96meVと線幅を大きく越えてしまうため、他の基底状態にある57Fe原子核を励起することは出来ないように思われます。 ところが、原子核が固体中に存在して他の原子核と結合している場合、固体全体で反跳を受けることによって、γ線の反跳エネルギーを無視出来るようになります。そして基底状態にある他の原子核も固体中に存在すれば共鳴吸収を起こすことが可能となってきます。

このような無反跳核共鳴吸収効果をMössbauer(メスバウアー)効果と呼びます。この現象は1957年にドイツの物理学者R. L. Mössbauerが191Irにおいて発見し、1961年にNovel賞を受賞しました。このMössbauer(メスバウアー)効果の注目すべきところは、反跳を無視できるようになったことで、原子核の励起準位のneV程度の線幅が全くシフトすることなく保持されるところです。 これによって原子核の周辺の電子構造や磁気的な性質を、超微細相互作用を通して反映される原子核のエネルギー準位の変化として捉えることが可能になります。また、励起エネルギーEに対して線幅をΔEとすると、 (実際にこの有効数字全てでエネルギーが決まっているわけではありませんが)基準となるエネルギーに対してはγ線領域において実にΔE/E~10-12もの超高分解能となります。 このような特質を活かして、重力による光のレッドシフト(赤方偏移)と基礎物理研究、超微細相互作用による電子状態研究、準弾性散乱を利用したスローダイナミクスの研究など大変多くの分野での研究がなされています。