京都大学 複合原子力科学研究所
核放射物理学研究室

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γ線レイリー散乱

Mössbauer(メスバウアー)放射によるγ線Rayleigh(レイリー)散乱法

メスバウアー効果のところでも述べていますが、原子核の中には励起エネルギー準位が10 ~ 100 keV程度であるのに対し、その線幅がneV程度と励起エネルギーに比べて極端に狭いものも存在します。例えば57Fe原子核の第1励起準位は、励起エネルギーが約14.4 keV(波長0.086 nm)であるのに対し、 その励起準位の線幅は4.6 neV(不確定性関係から寿命に換算すると141 ns)です。 これは分解能で表すと、ΔE/E<10-12 (!)となります。 したがってこの励起原子核から放射されるγ線は原子スケールの波長を有する極めて単色の光だと言えます。 このような超高分解能γ線を用いることで様々な研究への応用が考えられますが、有名な研究としては重力によるγ線のレッドシフト(赤方偏移)に関する研究があります。 また大変ユニークかつ有力な応用として準弾性散乱測定が挙げられ、0.1 から数nm程度の空間スケールの散乱体の運動を1 nsから10 μs程度の時間スケールで観測することが可能となり、ソフトマターやガラス転移の研究のための強力なツールとなります。
Quasi elastic scattering
この測定方法の概略を上の図に示しますが、原子核が励起準位から基底準位に遷移するときに放射される超単色γ線をプローブとして、測定試料に照射したときに散乱されてくるγ線のエネルギー変化(エネルギー幅の拡がり)を基準吸収体をアナライザーとして用いて調べることで試料内の散乱体のダイナミクスを調べる方法で、Mössbauer-Rayleigh散乱法として知られています。 我々は放射光を光源としてこの方法を用いて液晶のスローダイナミクス(京大プレスリリースのページ)についての研究を実施しました。 Realxation
また、現代物理学の難問であるガラス転移の解明を目指して、過冷却状態にある分子性液体o-terphenylの研究(京大プレスリリースのページ)を行いました。 左の図は過冷却液体中における分子間距離(の逆数)である14nm-1とそれよりも小さい領域(23nm-1)で分子の緩和時間の測定を温度(の逆数)の関数として測定したものです。緩和時間がその領域に応じて緩和の仕方の温度依存性がある温度を境に大きく変化していることが分かります。このような測定結果の解析によって、過冷却液体o-terphenylの分子運動性が液体が冷却に伴い固体的な性質を帯びてくる証拠を与えたばかりでなく、過冷却液体の分子運動の変化は同時に起こると考えられていたこれまでの常識とは異なって、段階的に起こることを明らかにしました。
核共鳴準弾性散乱法は、原子核の励起エネルギーとその線幅が持つ鋭い超高分解能を活かした測定法であり、他の方法では困難な測定領域に切り込むことの出来るもので、過冷却状態のダイナミクスの研究でさらなる成果が期待されています。