京都大学 複合原子力科学研究所
核放射物理学研究室

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放射光吸収分光法

放射光吸収メスバウアー分光法の開発

メスバウアー分光法は、物理、化学から生命科学に渡る大変広い分野で利用されています。 近年の第3世代放射光施設の出現によりメスバウアー分光法の光源として大強度放射光が利用可能となってきました。 放射光は高い指向性、ビームサイズの小ささなどといった大変優れた性質を有しており、 超高圧、超低温、超高温、強磁場などの極限環境や顕微測定が比較的容易に実施できるようになります。 我々は、このような放射光を用いて吸収型のメスバウアースペクトル測定を可能とする方法の開発に世界で初めて成功し、放射性同位体(RI)線源では測定が困難であった73Geの第3励起状態のメスバウアースペクトル測定に成功しました(京大プレスリリースのページ)
単純に考えると、放射光をそのまま放射性同位体(RI)線源の代わりに使用出来るように思われるかもしれませんがそうは行きません。RI線源の線幅が大変狭い(57Feの場合で4.6neV)のに対して、放射光は(特殊な場合を除けば)狭く出来てもmeV程度までなので実に6桁程度も幅が広いものになっています。これからどうすればneV程度の準位の分裂やシフトを吸収メスバウアースペクトルとして測定出来るのでしょうか?そのために、測定試料の他に基準となる試料を用います。 ここでは、正確さを犠牲にして概念だけを書いてみたいと思います。
SR Mossbauer
図の中の左下の図は、入射放射光のエネルギー分布(スペクトル)を示しています。この放射光が測定試料を透過した後のエネルギースペクトルがその右の図です。これは実際のスケールとは合ってはいませんが、meVの幅の放射光においてneVの幅の吸収が起こっていることを示しています。このようなneVの分解能でエネルギーを測定出来るような検出器があればいいのですが、実際には存在していません。そこで、この透過してきた放射光を基準試料に照射します。このとき、測定試料と基準試料の励起エネルギーが異なっている場合には、基準試料の励起に必要とされるエネルギーは測定試料で吸収されていないので、共鳴励起(散乱)が起こって、検出器でカウントされます。一方、測定試料と基準試料の励起エネルギーが同じ場合には、基準試料の励起に必要とされるエネルギーは測定試料で吸収されているので、共鳴励起(散乱)が起こらず、検出器でカウントされなくなります。そこで、基準試料をドップラー効果でエネルギースキャンしてカウントを数えると一番右のようなRI線源を使った場合と同様な吸収型のメスバウアースペクトルが測定出来ます。