加速器

京都大学複合原子力科学研究所では平成14年から文部科学省「革新的原子力システム技術開発」事業として「FFAG加速器を用いた加速器駆動未臨界炉に関する技術開発」を行ってきました。
加速器駆動未臨界炉とは、未臨界状態の核燃料集合体に加速器からのビームでつくった中性子を照射して臨界状態を実現する原子炉の事です。
加速器駆動未臨界炉に関する詳しい説明は、我々の実験所で従来から加速器駆動未臨界炉の研究を続けている核変換システム分野の説明をみてください。

加速器駆動未臨界炉の体系イメージ。加速器からのビーム(陽子を想定)を未臨界の燃料集合体に隣接しておいたターゲットに照射し、そこで発生させた中性子で燃料を臨界状態にするというもの。

我々の実験所では、従来より加速器駆動未臨界炉の研究をしていましたが、加速器として使用していたのが300 keVのコッククロフト型加速器であり、現実の加速器駆動未臨界炉で想定される1 GeVクラスのビームとの差があまりに大きい点が問題となっていました。

そこで今回のプロジェクトでは、より現実に想定されるエネルギーに近くなる150 MeVの陽子加速器を建設し、それを使った未臨界炉の研究用の体系を作ることとなりました。あわせて、加速器のビームでつくる中性子の発生量を自在にコントロール出来るよう、エネルギーやビーム強度を可変しやすい新しい加速器を建設する事が目標となりました。

このような性能を満たす加速器としてFFAG加速器の建設を進めることになりました。FFAGとはFixed Field Alternating Gradientの略で、交互に勾配の変わる固定磁場を使って加速中のビームの発散を防ぐ原理の加速器です。同じ原理はAVFサイクロトロンやリングサイクロトロンでも使われていますが、これをシンクロトロンに応用する事で、サイクロトロンより大電流で高いエネルギーを実現出来、かつシンクロトロンより調整が容易で速い加速ができるようになる加速器ができると考えられています。

建設したFFAG加速器の諸元をふくめたプロジェクトの詳細についてはKARTプロジェクトのページを参照してください。

建設されたFFAG加速器。2002年から製作が始まり、2008年10月にファーストビームの取り出しに成功した。またADSRの基礎実験も2009年3月より開始された。

我々の研究室は原子核物理や不安定核ビーム開発・利用の経験、また研究室のメンバーが過去にサイクロトロン建設をおこなった経験がある事から、当時KEKでFFAGの原理実証をされていた現実験所の森教授のグループと協力し、建設に関して基本的な計画の策定から建設に関しての中核的な役割を担う事になりました。特に加速器の設置や将来的な加速器ビームの多目的利用のための建屋の建設、加速器を運転やビーム制御に必要となる高度な制御システムの開発は我々のグループの主導で行われたものです。
また、陽子をイオン源から最初の加速器に入射するためのビームラインについては、当時我々の研究室の博士前期課程に在籍した学生がメーカーの技術者を主導して稼働させ、その学生の修士論文のテーマにもなりました。

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